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2012年8月6日月曜日

気配を消す敵




気配消す

夏の小説祭り



1

パーカーがいう。
「地球と違って貨幣がこの惑星にはない。好きなだけ店から持っていっていいんだ。だが労働はある。一人占めしようにも切りがある。大量生産の果ての世界だ」
「なるほど。葉巻もあるのかな」アルフレッドがたずねた。
「あるさ。なんでもある。好きなときに労働する。人口が多いんだ。大量に作るだけ作る。働きたいだけ働く」
「おっと、マルクスの共産主義みたいな話だぜ。いずれ破たんするさ」
「地上でいうネット経済みたいなものだ。真の芸術は金で働かないとか何とか言ってるな」
クラークがいった。
「パンクしたりしないのかい?」
「しないな。学校も行きたいだけいける。ただし退学はある。刑務所もだ。軍もある。力なき正義は無力だがこの惑星の信条だ。よし、今日はこれで解散」
ドアをあけ、通路に二人が出ると女がとおりかかった。
「男の人は大変ねー」
そういってケラケラ笑って去っていった。
「なんなんだパーカー、あの女は?昼間から飲んでるのか!?」
「さわるな。あれは俺の女だ」パーカーがいった。
「どう見ても危なそうだぜ、パーカー。この惑星で女性は初めてみたが。やはり地上と違うのかい」クラークがいった。
「タウンに下りて自分で確認しろ」パーカーはまだ任務があるとさっていった。

タウンでは、アラビアのような市がひらかれていた。
ふたりはならんでぶらぶら見物した。にぎやかでのんびりしている。
「地球のアメリカと違って、営利店って感じじゃないな」
「仕事というより趣味で店を出してるフリーマーケットにちかいんだろうな。生活がかかってないのさ」
「クラーク、日中だが一杯!?」
「ああ、飲んでみるよ」
店先にはいるとマクドナルドのようだが無人で、アーケードゲームのようなテーブルがモニターになっている。タッチパネルを操作するとフリーでドリンクが運ばれてきた。ロボットである。
「酒だが、ここのはアルコールがはいってないらしい」
「へえ、何の成分なんだろ。味がしない炭酸水みたいだが…」
「ほんのりしびれるな。なあ、クラーク、なんで俺たちの知り合いのパーカーがこの星を統括しているんだ?あいつ、そんな偉い奴だったのか!?」
「M&Aみたいに買収したとか言ってたな、統治権をさ。もっと上で管理してるやつが別の星にいるんだ」
「そうか…おっ!?なんか、この酒、ホットになってきた感じがする」
「サイダーみたいに味がするのかしないのか微妙だぜ」



2

丸い水晶玉が運ばれてきた。
「仕事さ」パーカーがいって念じた。
「地球のパソコンと違ってキーボードがない…」
「そうさ、思考が電波で伝播してソフトウェアを組み立てるんだ」
「ワードプロセッサーもかい?」
「ヘイ!クラーク、アルフレット、指を使いたきゃピアノを習えよ。テニスでもいい。スポーツでも音楽でも、仕事といえばソフトウェアなんだ。これを組み立てれば、ショベルカーが自動でがれきを運ぶんだ」
「でも、なんでも頭でイメージできないよ」
「そこはほれ、玉に画像が表示される。同じさパソコンと」
「なるほど、地球もセミにだが、この星と同じ仕組みになりつつある…運転手がクラウドで室内のコンピュータのモニターで運転してもおかしくないからな」
「僕にも水晶玉をくれよ」
「OK6個あげよう。だが原始的な仕事が地上と同じである。統括さ。統治する人がいないと、犯罪やもめ事が絶えない。苦情を言いたくても、四民平等、みんながアパートの住民じゃ。管理人がきちんとクレームを処理し、下水を整え、暮し安全としなきゃ、誰もこの星に住まなくなるぜ。まえにあったんだ。別々の統治者でも仲が悪くて考えが合わないのが…『あいつらの基地を破壊してくれてありがとう。お礼にここで暮す権利をあげよう』ってかんじだ」
「なるほど、宇宙人は仲良しごっこを始めたわけか…」
パーカーは腹を立てなかった。
「まあ、いってみればその通りなんだ。どの惑星が一番住み心地がいいか。ある評論家にはそれが過熱しすぎて弊害が生まれているとかいってたな」
「戦争はあるのか?」
「あるさ。平行線なら別の惑星に住めばいい。だが侵略をよしとする奴らも軽くいるんだ。それと、カーターが遊びに来るといってたぞ」
クラークとアルフレットのふたりは地球での生活が自分の前世の時のように思いだした。「カーターか…なつかしいな。ずっとこの星にいたような気がするよ」
クラークが悪態をついた。「悪夢から覚めて、夢の中で困ってるんだ。打つ手がない。かといって逃げられない。みじめだけど走り回るしかない苦痛。目が覚めると、なんだバカらしい、夢じゃないか。損した!こんな感じだよカーターの来訪は…!ハハハ」


3

アルフレットは水晶玉の扱いが疲れると、紙のノートで仕事していた。
「考えたとき手ごたえがなく入力されるのがこたえるんだ」
バットでボールをうったとき音と手の感覚があるが、この世界のパソコンは無反応だ。「まだ、パソコンならクリックのとき、音と触覚がある」気がつくと水晶玉に思考が記録されているが脳の電池を多く消費している感じがした。
欲しい資料とデータは空中にホログラムのように浮かぶ。
しかし、普通に紙の帳簿でみたくなったりした。
ノートに書き込んだり考えたりしていたが、コーヒーが飲みたくなった。
コーヒールームに行くとパーカーとクラークが菓子を喰ってしゃべっていた。「おう、アルフレット。休憩かい」
「おまえら、さっきから休んでいたのか!」
「べつにいいだろ。アルフレット。コーヒーを飲めよ」
「ああ飲むさ」
「艦長は孤独なんだ」パーカーがいった。
「それで話し相手がほしくなる。ビーグル号でダーウィンが雇われたのはそのためなんだ。フィッツ=ロイは艦長だが、部下を統率するため、みだりに船員と仲良くなれないんだ。君たちが僕のダーウィン博士なんだ」
「社長やCEOは偉いよな」アルフレットがいった。
「仕事もさせて、話し相手はつらいだろ」クラークが口に菓子の粉をつけながらガリョガリョいった。
「俺たちふたりはここじゃ部外者だから、軽口を聴いても問題ないんだろ!?」
パーカーがいった。
「そうだよ。それに、オレが、この惑星の支配権を買ったのは知ってるよな。いちおう、この惑星に限り治外法権だ。いやその逆だ。統率者の資格を持ってるんだ。ホラ」免許のようなカードが地球でいうスマホに出た。
水晶玉はもちはこばないが、カード上のスマホのようなものにあらゆる免許、卒業証明書、健康書、表彰状、メダル、会員カードが表示される。
「ワイロもつかわずゼネコンが動かせるかもしれないんだぜ、偉い奴と仲良くなると、急にえばりだすやつがいる。そいうやつはまずいんだ。君たちなら何ともないからさ」
アルフレットがコーヒーを飲みながらいった。
「光栄だがあまり俺たちを信用するな」
パーカーがなおもいう。
「普段いがみ合っている連中と飲んで楽しいか?隙があればサシミを横から奪う奴らと」
「チェスか囲碁のタイトル戦を戦いながら酒を飲むみたいな話だぜ。つねにムカつかせられないよう、防御しながらの飲酒だ」アルフレットもいう「酒に酔って本因坊戦を打ったら、脳溢血になるさ」
パーカーがいった。
「そうなんだ。だからお互いの信頼が大切だ。ところが…統率者が自分の星の奴らと飲むと、いくらうまく統率しても、楽しく飲めない。幹事さんが酔えないのとおんなじ理屈さ。俺なんかこっぴどく叩きのめされたこともあれば、一人ぼっちで悲しい思いしたことまで、さまざまさ。仲間がさりげなくいたときも。それで統率権を買うことを思い立ったのさ。そういうやつじゃなきゃ、あえて苦労の道を歩まないさ」
クラークがいった。
「さてと、…やりかけの仕事をやっちまうか…」
4

アルフレットは新しい武器を考案していた。
鞘やツカにタッチパネルが表示され、操作すると、いろいろなタイプのソードになる。
「三種類くらい考えたぞー」
ひとつはレーザーソードで高エネルギーの光の刃で敵を斬るが至近距離の敵一人に攻撃できる。
ふたつめは、振動の原理で反響を起こし、電磁波のカッターが遠くの敵を複数切り裂く。
三つ目は、ライオンソード。メスは獲物をしとめるのが仕事だ。オスは狩りをしない。じゃあ。オスのライオンの仕事は?なわばり争いだ。一番獲物をとりやすいエリアなのか、安全で住みごごちがいいところか。百十の王はほかの獣と争わない。同じ、別のグループの雄ライオンと戦う。だから、寝ているようであたりを警戒している。地味にエネルギーを消費している仕事だ。
そのモードだと、レーダーが自動で探知し、ブレードが放出される。高圧の振動する素粒子だ。バリオンとメソンの高エネルギーの竜巻がカッターのように切り裂く。
アルフレットは、あまり好んでいない水晶玉に念を吹き込むと、地球でいうプリンターのような装置に球を置いた。
水晶玉が光る。
ウーン
工作機械が注文通りの武器を創りだした。この惑星でも12時間はかかる。
「さてと、あいつらコーヒールームにいるかな」
ガーと自動ドアが開き中に入ると、クラークがいた。
「シガレットか。クラーク吸いすぎはよくないぞ」
「おおきなおせわさ。それよりこの観葉植物、見事に煙を吸い込むぞ。見てると面白い」
「作業がすすまないんだな」
「というより、やることが思いつかないのさ。そっちは、はかどってるみたいじゃないか」
「まあな。クラーク君、画期的な武器をもうすぐみせられるな。おい、一本よこせ」
「ホラ。キャメル(ラクダ)というより、砂の惑星って感じのデザインだ。味もミスティクな香りだぜ」
「それよりカーターがこないな」
「そういや、おそいぜ。おい、めぼしいニュースとメールを確認してくれ」
コーヒールームの壁一面に主だったニュースと重要なメールが表示された。
「スミソニアン協会から音楽がとどいている」
「どれ、かけろよ」くわえたばこでクラークがいう。
「カーターからの便りがないぞ!?」
「カーターからの連絡はないのかい!?」
≪カーター氏と連絡中―・―・―★―χ―Γ―≫
とつぜんルームの壁全体がプラネタリウムのように星空になった。
「カーターの船か…!?」
線や文字で銀河に地図の表示がついた。
「ありゃ、まだあんな遠くだ」
「地球は!?ああ、出たばかりだ」
「オリオン座にまちがっていくなよ。たどりつくまで5日か」
「船の速度をあげろカーター!メールだ。おくってくれ」
≪OK!マスターシップに送信=Θ=Γ=Ψ=■≫
手紙が表示され、ホログラムで確認・送信のアイコンが手元に発光された。
いきおいよくそのアイコンの玉をはたくと、ボン!と音がして消えた。
「おい、ほんとに速度を上げたぞ。」
≪カーター氏からのメールです。マスターシップから≫
足元にアイコンが発光された。
クラークが蹴飛ばすと、バイン!と音がして爆弾みたいに破裂した。ようにみえたがホログラムだ。
「アルフレット、クラーク。ひさしぶりだな。時空警察にはあえたか!?パーカーに厄介になっているそうじゃないか」
「そうだぜ。おそいぞカーター」
アルフレットはコーヒーを注文するとテーブルに穴があき下からコーヒーが上がってきた。
カーターがいった。
「お土産だ」そう言って何か操作したが、ホログラムの青や赤や緑の玉が洪水のように振ってきて二人は溺れそうになった。
「おい、やめろ。光にも圧力があるんだ」
クラークはパンチやキックで玉をたたくとはじけて消える。
何回かつぶして宝箱が出てきた。
「なんだよ、カーター…」
あけるとびっくり箱だった。


5

その後ふたりでしゃべっていたが、クラークが、「目がまぶしくて痒いよ」といった。
そのとき。
ガー
と自動ドアが開いてパーカーがはいってきた。
「目がかゆい時は耳かきだ。耳の穴のひふは普段刺激がないから、そこを刺激すると、血流が良くなり、目の痒さがひく。」
「あ、ほんとだ」
「人間を叱ったりして、気まずい言葉が耳に残るときは、セミの鳴き声だ。真夏の、うんざりするほど、大勢のセミのなりやまない合唱が、耳にこびりついた人間関係のストレスを洗い流してくれる。あとスポーツの試合で戦を見る。人を教えるとき手加減しながら戦うから耳がかゆくなる。遠慮のない戦で痒さが消える。殴りたいのに殴れないストレスが消える。あと音楽の聴きすぎもシャワーのようにセミの音で流せる」
「わかったよ、パーカー」
「?」
パーカーは腕組みをして横を向いている。
「どうした?」
「いや。なにか気配がする」
「気のせいだろ」

2日後、カーターが到着した。
パーカーと握手をして、
「よろしく、パーカー。お世話になります」
「こちらこそよろしく。カーター君。すぐルームを手配しよう」
「ありがとう、気を使わないで…」
アルフレットがいった。
「あとで見せたいものがある」
「ああ。クラーク、ひさしぶり」
「ああ、カーター」


カーターは部屋ににもつを置くと、食堂に移動した。
「ああ、それでは再会を祝して」
いつもより、太い声でクラークが挨拶をした。
「ワトソンはどうしている!?カーター。あっているか」
アルフレットがきく。
「地球はどんなようすなんだい。カーター?ぼくがいたのはもう5年前だ。あのころ地震とかがあった気がするよ」パーカーもたずねた。
「いや。彼は考え込んで頭を抱えてお地蔵さんになっている」
「なぜ」
「いや、何だかわからんが、悩み込んでいる様子だ。地球は…きてみればわかりますパーカーさん…」
クラークが太い声でいう。
「しかたね。俺ら、悩みやつれる仕事してるんだ。嫌なら、くらがえするしかないんだ。地球にいたとき俺もカーターの片腕として働いてた」
「おい、クラーク。ヤバい話になると声が太くなるのかお前!?」アルフレットが食後の葉巻をふかしながらいった。
「おまえ、まだ俺、食べてるだろ。葉巻ふかすのあんまりだぞ」
「ゴホッ!口調も違うぞ!」アルフレットはあわてて灰皿に葉巻をおしつけたが、しばらくくすぶっていた。


6

「これだ。ライオンソード…となずけた。みてろカーター地球の武器とは比べ物にもならない」
軽く剣をかまえ、右手の親指で広い方のツカをさわり、タッチパネルを操作する。
ジジジジ…フォン
「お、ブレードの色が変わったぞ」
「試し斬りしてみる」
スチールの厚い鉄板が二枚並んでいる。
「いざ」
グオ~ン!
「おお、鉄板が斬れていく」
ガガガガアア
「真っ二つだ」
「次はライオンソード」
また、アルフレットは両手で構え、右手の親指で操作する。
「剣がただのスチールになってるぞ…」
右手でライオンソードをもち、左手の手のひらをかざし、気配を読む。
「だめさ、敵がいないとレーダーが反応しないんだろ」クラークがいった。
「そうだった、よく気がついた、偉いぞークラーク」
そのとき剣が輝きだした。
トゥルルルルルルルゥー
「おおおお、レーダーが反応してやがる」
ツカからアルフレットの視覚に敵の位置が銃の標準のように、情報がメールされた。
「おお、見える。マトが」
そういうとアルフレットはライオンソードを斬りつけた。
ガク、ガンガンガーン。
気配を消していた敵は、正体を現した。
「なんだこりゃ、日本の漫画の忍者みたいな格好だぜ」
「宇宙忍者サスケとよぼう」

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