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2014年12月16日火曜日

ヘレナ または世界一の美女


ヘレナ

または世界一の美女












解説


この物語は絵本やおとぎ話、昔話のように読んでもらいたい。
整理整頓し尽くされている話しだと、かえって気味悪いので不可解な個所をオブジェのように付け加える。絵画に何かへんてこな奥深いものが書かれていて見あきないように。
読む(芝居を見物する)お客様が退屈しないで楽しめるよう。
できれば何度も読みたくなるよう知恵を絞って。

争いはいけないことだが、勝敗の結果は苦い汁だが、争いが本当に消えるのは「太陽の火種」がかき消されるのとおなじ。
禍の災禍もそうなのかもしれない。
あまり難しい哲学を並べても小説であるかもしれないが、物語(ストーリー)を妨害しかねない。

ゲーテのファウストやギリシアの物語を変形させて作られている物語。

ゲーテのファウストも語られている描写が現代でもそのまま通用するか?
「政治や文明が違うため、機能はしない。でも、博物館のように昔の手まわし道具は景色として作用する」
そうかもしれないし、
1000年前でも人間の本質に変わりのない部分はある。そのためゲーテの文は今でもそのまま通用する人生訓である」
読み手にもよるだろうし、年齢にもよるだろう。
本当に動く道具になるというのは作者の夢だ。あるときは雰囲気を伝える描写として働く。
しかし、現代は漫画や映画のように視覚的には恵まれている。
風景描写でも古臭いくらいが雰囲気が出たり、何のことか半分わからないくらいの方が読みごたえがあったりするのではないか。
ただ、映画なら目で見てわかることを、単語とか言葉であらわす文章だけの小説はインターネットでたくさんの豪華な画像を閲覧できる時代、「口でいってないで、本物を展示して見せて」となるのも否定できない。

ドビュッシーのバイオリンやブルックナーのシンフォニーには恋の葡萄酒の味や悲痛な悲哀の味が混じっている気がするが、余計な詮索かもしれない。
この作品にマッチしてくれそうでもある。

この小説も、読み物として面白ければ良いが、誰も本当にこの芝居みたいなことをやれといっていないので、悪しからず。

そして、最後の王の追手との対話だが、『聖アントワーヌの誘惑』ばりに哲学的な会話を戦闘シーンのかわりに当てはめようとした。王妃の教育がかりフォルキュアスのセリフだが、作者のわたしが自分の頭で考えれば、ウソになるか捏造になるし、原作や原典をまさぐれば書き写しになる。結局その中間にしてみた。ゲーテのファウストからもってきたが、言っていることの意味に自信はない。














第一幕


「ママー、『シンデレラ』読み飽きちゃった。新しいの絵本買って―」
「赤ずきんは?マッチ売りの少女は?」
「もう、みんな読んじゃったよ―」


読み足りない女の子の枕もとに「ヘレネ」という絵本が。





第二幕



スパルタ王の娘、ヘレネは20歳にまだいくつか足りない歳の頃、世界中のつわものから求婚を受けました。
スパルタ王はヘレネが自分の意思で選ぶ相手にめとらせると決定。

いつしか、求婚者たちの間に協定ができた。
選ばれた者には、参加者全員が従い、協力する。
ヘレネを誘拐しようというものでもあれば、全員一致で夫となったものに味方するのだ。

ライバルは違う敵のときは味方である。

ヘレネの父であるスパルタ王に甘いリンゴ酒を注ぎながら耳打ちした者がいた。
「不謹慎ながら王さま。スパルタ全土、いや外国までもがお祭りのようなさわぎでありまして」
「ふん、リンゴ酒か」
金色の丸みを帯びた液体がほとほとと注がれる。
「競技(オリンピックなど)の喝采のようにさわいでいるのというのか」
「御意」
「騒がれるのも名誉であるとともに、迷惑でもある。よい縁談とは火のついた騒ぎと違う」
「そうでありまする」


若い男が市場でしゃべっている。
「おれも求婚者として立候補したいがな」
買物娘に冷やかされた。
「よその男にどやされるのが怖いんでしょう」
「そりゃそうさ、戦争に行って来た筋骨たくましい男にヘレネ様のライバルだってすごまれるのはごめんだ」
「そりゃ、求婚者なんて口きくのも怖いわね」
「スパルタ中の猛者や英雄、金持ちが殺到しているってさ。おっかない男にどやされたくないし、睨まれたくないのはお互いさま」
「年中ケンカを売られているのと同じこと」
「ヘマをしょっちゅうする俺なら、とっつかまってトンマにされちまう」


そうした喧騒のなか静かに事は進行されていっていた。

ミュケナイ王の弟、メネラオスが結局婿に選ばれた。


「本当にヘレネ様が指名したのか?」
噂ではヘレネの希望ではなく第三者の意図がまじっただの、さわがれたが真相は本人たちにしかわからないだろう。

メラネオスはスパルタの王位をゆずられる。




第三幕



「ずいぶん褒められたり、貶されたりしたヘレナです」
船に乗って凱旋の祝いのさけばれる港にはいろうとしている。
マストに伝わるロープ。
カモメの鳴き声。
港の熱い太陽。
青い空と海の匂い。

「美の小箱を少女のときに開けて以来、あたりが一変して大騒ぎの渦中に。今ではすっかり慣れっこになりましたが」

美の小箱は戦争の火種から対になって生まれるという。
戦争は力による争いは男の暴力。
美は、美の力は女の暴力。

「夫はまだ戦争から帰らぬ。わたしひとり先に帰れと」
その心の計りは一度。
どう受けていいのかわからない。


「わたしたちの、お城の階段を駆け上がる。だけど、少女のときと違い足が重い。
主婦として、奉公人を取り仕切る。その勤めがはたせるかしら。
欲しいという者には『働きなさい。与えらえるでしょう』といおう。
それ以上に手本になる責任が。
でなければ、雇い人などおかれるわけもない。
賃金を払う日雇いの人夫を割高で雇うとかするしか。
それ以上のことはわたしひとりではわかりません。
ですが、主婦の務めを果たしたといいはることの禍は身をもって知る。
一番うるさく小さなときからしつけられましたもの」







第四幕


スパルタの城下ではうわさになっていた。
「おい、誰か処分されたみたいだな」
「まだ若い方の宮内卿みたいだ」

職務解任となったが、これまでの働きに免じ、投獄にはいっさいならず、罪の罰は身分を下げられて自由の身になったことだけですんだという。
原因は不正を行っていたことだという。

「メネラオス王はやはり有能なのか」
「戦争は見事に納めたぞ」
「今回の処分は」
「賛否両論だ」
「新しいものを昇格させて役職を補った。職務に就きたい下の野心家はいくらでもいるってさ」
「しかし、スパルタ王なんかやっていたら孤独になるんじゃないのか。部下でも不正をしたら裁かねばない」
「そりゃ、友達はいなくなるものさ」
「知ってるかい?孤独にめっぽう強くなきゃ人の上に立てないのさ」
「甘えている坊ちゃまは人の下にされるのがあたりまえさ」


権力者として地位が高く、そして逆らわれないよう威圧すると、孤独になり渇く。
人がいなくなる。下の人には溢れるが、上をやるものがいなくなる。
違う目線で分析して論理で考えると、「上をやるという」商品を売る商売が帝王なのだから、自分の店先の商品を失敬する以外「上をやる人」がいなくなるのだ。
上をやるということは自分の商売の商品なのだ。
国王のような立場を商売になぞらえるのはときとして不謹慎だが、論理的に分析したためお許しを頂きたい。
だんだん孤独になり、無人の世界にいるようになる。誰より人の渦中にいる職務ながら。
それが帝王だ。


メネラオス王は一日の仕事を終え、城の私室で休んでいた。
「帝王の孤独には、いくらでもではないが、いくつか抜け道がある。
ひとつ、逆らわれるのは苦痛で目の上のたんこぶではあるが、勢力に置いて自分に準ずるものなどいくらでもいる。そのものは少しは人間をやってくれるのだ。逆らわれた分。わしの場合、妻ヘレナの父、前スパルタ王などどうだ?大御所の役割を果たしてくれる。そのかわり、自分の権力を分割する相手でもあるのだ。
甘えが過ぎて謀反を起こす相手とだべっていると寝首をかかれる。しかし、武力で鎮圧しすぎると孤独にさいなまれるのだ。
そのニ、妻。
ヘレネは妻であるがゆえ、わしの扱いで自分と対等の人間を役割してくれるのだ。孤独な帝王は妻をたくさん養うという手段があるのだ。
その三、芸術・競技に耽溺する。地位が高いものは職務を果たしていると、下のものが石ころにしか見えない宝石や美術品に力を感じる。それは人を感じるほどである。それを知ると下のものは怒りだす者もいるがな。あるいは競技の英雄は王である自分に一時かわって地位の高いものをやってくれるのだ。ほかにもないでもないが…」

このお話の主題は妻であるヘレナであろう。
王の夜の休む時はここで中断する。



第五幕


メネラオス王は公務にでている。
その昼過ぎ。

ヘレナは一人で昼食をとる。
ビスケットとミルクをいただいている。

教育かかりの女フォルキュアスがうやうやしく案内した。
「ヘレナさま、香水風呂の用意ができました。昼食がおすみでしたら入浴していただきます」
「わかりました」


解任された宮内卿が往来を歩いていった。
「抜け道を使って酒以外にも甘えている王様にいわれたくないね。
こっちはメネラオス王のためを思ってしたことさ」


民衆
「ヘレネの魅力はきいたかい?軍隊ですら動かしかねないそうだよ」
「実際会ったこともないだろうに、人望もふくらむ」
「馬鹿げた話に冷静な私たちは思えるが。一人の女性の人望や美しさで実際現実に軍隊が掌握できたら危険な話だよ」
「その危険な力が現実になっているのさ」
「このよそのものが馬鹿げた現実にこしらえられているのかい。神のみ技は」
「神の美貌と神のいたずらだ」
「神様がそんないたずらをされるかなあ」
「ゼウスの御心のままに」

軍人たち
「戦争の恐ろしさ、苦痛は耐えられるのは勇気をもって」
「そのとおり、祭りをおもいおこせばわかるだろうけど、あの千人力の勇気を騒ぎがあれば、敵兵の槍も剣も痛くない、怖くないのだ」
「医者の薬よりまだ、酒に酔うより痛くない。だから戦争も怖くない。死んでも怖くない」
「ところが怖いのは、臆病。あの風に吹かれたらたまらない。痛いどころか、激痛がさされる前から襲われる。酒の酔いより強める千人力の勇気を持ちだす女神様」
「アフロディテ女神に聞こえる!」


ゼウス。天上から
「自分が社会にたいしてしでかした迷惑はその妻の手から自分に帰る。
自分が社会にたいしてした功労はその妻の口から自分に帰ってくる」



第六幕


パリスの審判。
この劇ではとりあげない。
ギリシア神話や百科事典で調べて概要を知ってほしい。
あるいは博識な方はもうご存じか。

そのパリスがヘレナに恋をする。
街宿の女将にいわせると、
「少しばかり頭の狂った若いいい男」がパリスだという。


群衆のうわさ
「おれはみたぞ。メネラオス王が城の塔の灯りに影を作って映っているのが。長く伸びたその影はいかにも恐ろしげだった」
「王はなにをしていた」
「ゆっくり歩いているのが見えただけだった。でもな、お怒りなのが俺にはわかったんだ」
「誰かが断首でもされるのか」
「おれなら王には逆らわないね」

そのいかにも恐ろしげな王に逆らったのがパリスだった。

メネラオス王が怒鳴った。
「なぜ、ヘレナは逃げ出した。あのパリスとかいう美男子か。フン、品がよく話し相手として居心地があまりにいいので気を許して城に滞在をゆるしたのがアダになったか!ガッデム」
魔術占い師アリスタンダー「王さま、ヘレナ様は連れ去られただけであって王を裏切って逃げたのではないかもしれません」
「なるほど、きいたことがある。ヘレナは誘拐されたことがあったと。まず、ヘレナとパリスを追跡せよ。ことの真実はそのあと確かめる!自分の妻を人に自慢するのは災いだと教えられたわい」

メラネオスの軍隊がパリスとヘレナを追う。



第七幕


「あなたはなんなの?」
「パリスさ。城であったときのパリスじゃない。君に恋しているパリスだ」

第一の追手【ポーン】

「メラネオスの兵士か」
パリスは剣を抜かずに、金貨を見せた。
「これでみのがしてくれないか」
ポーン(兵士)は答えた。
「ならん、王につれてくるよういわれている。覚悟」
「くっ、ぐずぐずしてられないんだ。無茶もする!」

パリスはポーンをその剣で殺害した。


第二の追手【血みどろの騎士】

「あなたメラネオス王に勝てると思っているの?殺されるわ」
「もう次が来た。いくぞ」
「王の指令とともに…血に狂ったわが身。貴様の臓物をひきずりだすのが役目なり」
「狂ったナイトめ」

パリスも片目から流血し、さらには剣も折れた。
だが、ナイトを刺殺できた。


「さあさあ、逃げないと次が来るぞ」
「あなた、私をどうする気なの?」

第三の追手【フォルキュアス】

空から鳥女ハーピーの姿でまいおりる。
「ヘレネさま。迎えにあがりました。それとも、その男と逃げるおつもりでしょうか。公明で叡智にすぐれたお方には逆らわずに頭を下げるものです。通常の現実では不可能なことを可能にできるお方にむやみに抗うのは実(げ)に愚かといえましょう。幾億の種類があるといいます。私が持っている女性としての魅力の要素を一本だけわけ与えたもののように。私の取り柄をあなたにも植え付けたい。あたたが持つ魅力との組み合わせれば効果が生きてきましょう。それとも、あのパリスという国をもっているといっている若者のほうが聡明であればお逃げなさい。猪の内臓をあなたの死のしるしとして王に持ち帰りましょう。その確かさはあなた自身のお仕事。自分の才能を担保に国をもっているとつけでいいはる若者はいかに?」
ヘレネ 「わ、わたしは…」


天候神へヴラェル
「よかったらつかえ、地上の英雄よ。世界一の美女を手に入れるために頑張るのか~」

天候の剣が空から降ってきてパリスの前に突き刺さった。
「天からの助けか。折れた剣の代わり」

美の神アフロディテ
「あなたが、人間の助けをするとはね。それも女性を手に入れるために闘う青年の」
天候神ヘヴラェル
「わしだったらごめんだね~。もめ事はごめん。もうたくさんじゃ。もうずっと昔に使い果たしてのこっとらん。宝物は流転する」

第四の追手【魔術占い師アリスタンダー】

ひょろ長い長身だが細身のような。
ガウンのような魔法の法衣で硬く見をむすび、力んでいる。

「王宮の魔術師!神から授かったこの剣で倒す!」
「フン!わしがメネラオス王に忠実に従っていると思っておるのか!?王をそそのかし、国を我が魔力で支配するつもりだったのだ。ワッハッハッハ」
魔術占い師アリスタンダーは魔王の姿へと変貌する。その姿は巨大な悪魔!
「くそ、別の世界の物語の魔王め、自分の世界に帰れ!」

天候神ヘヴラェル
「あの魔力は反則じゃよーん。神々の力を使って異世界へ追放する!」
魔王アリスタンダーは別世界へ飛ばされた。

「こんなことしてパリスの味方していたら、わしがメネラオスに恨まれてしまうよん。わしが力になるのもここまでじゃ。わしなんか気の抜けた神様のようにみえるじゃろ。そのわしが、将棋のように読むなら…はじめのメネラオスのように他人に見せびらかしても、ある意味安全そうな女というのは、連れ去られそうになるとケリを入れそうな手の女だ。それがアフロディテ、君じゃよーん。あのヘレネという娘にはそれがない。だから誘拐される。そしてアフロディテ、君もわしの妻ではないよーん」

アフロディテは鍛冶の神ヘパイストスの妻であるといわれている。


美の女神アフロディテ
「なるほどねん。簡単にできることじゃないけど。あのパリスって男の子に美の審判のときに約束したから、力にならなくちゃね。世界一の美女ヘレネを妃にするって約束したのね」


山から向こうの景色が見えてくる。
パリス 
「やあ、絶景だ!絶景が見えてきたぞ!ぼくと君の二人しか見ることのできない絶好の景色だ!イャッホウ!」

命の危険を冒して逃げる二人が見た絶景は死の恐怖と引き換えだった。

最後の追手【キング:メネラオス】

手堅い王の経験と重さによる剣。
神々の武器を持つパリス。
パリスがやや不利か!?

美の女神アフロディテ
「君たち!!君たちはわたしの心臓に悪いわ。でも、手助けを!わたしの幻術で…」
水浴びをのぞかれたときに姿をくらます靄の術法!

パリスはあやうくもメラネウスに勝利した。
だが、闘いは終わらない。
砂煙巻き起こる大戦争への複雑な進路。


トロイア戦争のきっかけとなるこの事件。結婚式に呼ばれなかった不和の女神エリスがひきおこした美の審判、であるパリスの審判。
パリスの最後、メネラオス王の末路、ヘレネの結末…
みなさんが、それぞれ原典を読んで最後の結末を了解してください。





「ずいぶん昔のことですけど。わたくし…気持ちの整理をつけるのが大変でした。今では思い出の中のことですけど。昔の思い出と申しましても、1000年を優にこえる年月が記憶を薄めて下さいました。暴風がさったあとの静かな温かさのように。思い出なのに現実と違わぬほどつらく生々しい記憶、それがいまでは、やっとおちついてかみしめることができるほど、かすかにうすまれてまいりましたこと。けれども、あのころの思い出は今もわたくしの心の中に消えずに残っているのです。エリュシオンに流れる忘却の川の水を飲めば消えるのでしょうか」

西のはての楽園、エリュシオンで彼女はそう語った。










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