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2010年10月11日月曜日

「恋人」

ラジオ恐怖小説 『恋人』




僕はキャサリンに会いに行く。

暗くて歩きづらい夜道を通って。

扉を開けるキャサリンの手は青白く、か細く震えていた。

キャサリンは紅茶をいれてくれた。

熱い紅茶を飲んで、会話する。

一日で一番楽しいときだ。

この楽しいときが一日中続けばいいのにと思う。

どこか遠くで山犬が吠える声が聞こえた。

キャサリンの表情が恐怖の色をなした。

僕はこのとき気がついた。

いつものキャサリンなら、山犬の遠吠えくらい慣れている。

ここは、田舎の避暑地なのだ。山犬くらいいくらでもいる。

今日のキャサリンはどこかよそよそしい。何となくそう感じた。

僕は葉巻に火をつけ話題を変えた。

― 君の友達のフォローラ。あの子は元気かい。

川で見て以来、見かけないけど ―

― フォローラなら、国にかえったわ。伯父さまがむかえに来て ―

キャサリンの顔が嫌に青白く、体が震えているのがわかった。

― 夏とはいえ、夜風が冷たいよね。窓を閉めよう ―

葉巻の火を消し、僕は婚約の話を切り出した。

― 本国に帰れば、僕には楽に生活できる財産がある。

避暑が終わったら、僕たちは婚約しよう ―

キャサリンは泣きそうな顔をして、いよいよ怯えだした。

予想外の反応に僕の方が、驚いていると、

彼女は震えながら、静かにいった。

― 夏が終わる前にフォローラと同じで私も国に帰るわ。

あなた、一週間前にここで亡くなったのよ ―


おしまい


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