ラジオ恐怖小説 『恋人』
僕はキャサリンに会いに行く。
暗くて歩きづらい夜道を通って。
扉を開けるキャサリンの手は青白く、か細く震えていた。
キャサリンは紅茶をいれてくれた。
熱い紅茶を飲んで、会話する。
一日で一番楽しいときだ。
この楽しいときが一日中続けばいいのにと思う。
どこか遠くで山犬が吠える声が聞こえた。
キャサリンの表情が恐怖の色をなした。
僕はこのとき気がついた。
いつものキャサリンなら、山犬の遠吠えくらい慣れている。
ここは、田舎の避暑地なのだ。山犬くらいいくらでもいる。
今日のキャサリンはどこかよそよそしい。何となくそう感じた。
僕は葉巻に火をつけ話題を変えた。
― 君の友達のフォローラ。あの子は元気かい。
川で見て以来、見かけないけど ―
― フォローラなら、国にかえったわ。伯父さまがむかえに来て ―
キャサリンの顔が嫌に青白く、体が震えているのがわかった。
― 夏とはいえ、夜風が冷たいよね。窓を閉めよう ―
葉巻の火を消し、僕は婚約の話を切り出した。
― 本国に帰れば、僕には楽に生活できる財産がある。
避暑が終わったら、僕たちは婚約しよう ―
キャサリンは泣きそうな顔をして、いよいよ怯えだした。
予想外の反応に僕の方が、驚いていると、
彼女は震えながら、静かにいった。
― 夏が終わる前にフォローラと同じで私も国に帰るわ。
あなた、一週間前にここで亡くなったのよ ―
おしまい
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