ラジオ恐怖小説聖夜の特別編 恐怖の聖夜
1
「マリー、今年のクリスマスだが、
知り合いと友人の全員にパーティの招待状は本当に送ったのかね?」
「ええ、ちゃんと送ったわ。あなた」
「本当に皆来てくれるとうれしいのだが」
「だいじょうぶよ。あなた」
「なんだか不安になってきた」
ジョナサンは書斎で書きものをしていたが、
今年のクリスマスのことをふっと思い出した。
招待したはいいものの、ほとんど誰もパーティに来客が
いない場面を想像して身震いをした。
寒々とした、広いフロアにまばらな客。
会話にも不自由し、たちまち会話の相手がさっきと同じ相手。
盛り上がるも、盛り上がらないも、たびたび静かになる聖夜。
溜息さえ聞こえてきそうな沈黙と、わざとらしい会話の糸口。
一向に減らない御馳走と酒。
あとで豚のえさになるのかと思うと、
料理人の冷やかな冷笑が目に浮かぶ。
居心地の悪そうな客が言いづらそうに、早退のあいさつを述べる。
疑いも掛けずに「ああそうですか、それは大変ですね、
早く帰宅してあげなさい」
と自分でもなにをいっているのかわからない気まずさ。
ジョナサンは思わず寒気がした。
そして、家族の前で見栄を張って、
「クリスマス・パーティを盛大に!」
といった自分の愚かさ。
すべてを今更、後悔していた。
2
クリスマス・パーティには大勢の客が来て、
ジョナサンは腰が抜けそうなほど安心した。
そして妻にいった。
「マリー、大勢のお客さんが来てくれて本当に良かった」
マリーはいった。
「それはそうよ、あなた。これだけ張り込んだんですもの。
皆さん楽しみにしていらしたのよ」
ジョナサンが考え、催し物にとやとった
演奏家が聖夜の曲を奏でる。
さっきまで話声で騒々しかった、
フロアは静まり返って、皆聞き入っている。
演奏が終わった。
ジョナサンは一席ぶった。
「皆さん。聖夜にお越しいただいて誠にありがとうございます。
ほんの余興にと生演奏を披露させていただきました。
ではみなさんご自由におくつろぎ下さい」
3
しばらくして、ジョナサンは客が突っ立ったまま動かないのに気づいた。
会話もなく、フロアはシーンとしている。
「おい、マリー!これはどういうわけだ!?」
「どうしたのよあなた!?」
「客の様子に気がつかないのか」
ジョナサンが来客のほうを見て、すぐ妻のほうを向くと
妻もぴくりとも動かなくなっていた。
目を疑ったが、マリーが洋服を着たマネキンになっている。
「マリー!!?」
動かなくなった来客たちも皆ただのマネキン人形だった。
ジョナサンは叫んだ
「なんなんだこれは!?皆、喜んできてくれたと思ったら、
ただのマネキンじゃないか!!」
ジョナサンはマネキンを殴りつけ、人形を音をたてて倒れた。
「このマネキン人形め!!人を馬鹿にしゃがって!!」
ジョナサンは次々と人形を殴り倒した。
「こいつも!こいつも!こいつもただの人形だ!
人間はどこにいる!?どいつもこいつも人をコケにしゃがる!!」
ジョナサンは二階の休憩室のドアを開けた。
そこには、まったく使われた気配のないグラスとテーブル。
乱れていない革張りのソファ。
小型のクリスマス・ツリーがあった。
「畜生!俺を嘲笑って、そんなに楽しいのか」
ジョナサンはピストルを抜くととこめかみにあてて発砲した。
4
「今の何の音!?」マリーが叫んだ!
来客も騒ぎ出した。
「銃声だ!」
二階の休憩室に人が集まると、
血を流して倒れているジョナサンがいた。
ざわめきがおおきくなり、
そのなかのいくつかの会話が呆然としているマリーの耳に入ってきた。
「ピストル自殺だ!なにもこんな聖夜に…」
「だから来たくなかったんだ。本当は別の屋敷からも誘いが来ていた!」
「最近様子がおかしいと思えば」
「まったく!不愉快な!わざわざ我々をよぶな」
「まあ…どうしましょう。一年に一度のクリスマスが…」
「ジョナサンのとんだクリスマス・パーティだ」
おしまい
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