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2013年9月26日木曜日

パァンとサアカス 第四部

パァンとサアカス 第四部



そしてストーリーは異世界へ





1


病気で熱をだし、ベットに倒れ伏しているヘクトリューシャはだいぶ前の舞踏会の時のことを思い出していた。あのとき、ルターリャはきたが、ピョートルはいなかった。ピョートル・イアアはヘクトリューシャの又従兄弟(またいとこ)で幼馴染である。ニコライは、「僕は社交界は嫌いだ」といって決して来ない。
ヘクトリューシャが40歳になるかならないかの男性にダンスを申し込まれた時のことだった。ヘクトリューシャは「グラスにシャンパンがまだ残ってますので」と、適当な返事をして断った。相手の男は悪態をついた。ルターリャが飛んできて表向き紳士な対応で応対した。ピョートルもニコライもルターリャがいうように“へたれ”かもしれない。しかし、こんな幼稚なことで腹を立てたり悪態をついたりしない。ルターリャがいった。「ああいうふうに我慢が出行きてない連中はトイレットトレーニングがなっていないんだ。我慢が出来ず、すぐ悪態をこぼす。ストレスをため込むということがないものだから、芝居をみても、本を読んでも、音楽を聴いても、スポーツをしても、風呂にはいっても、ワインを飲んでも、何をしても楽しくないがはじまる。ストレスはスパイスであり、スパイスがない人生は、どんな楽しみも味気ないということを知らない。金持ちのボンクラ三代目かよっぽどの貧乏人に多い」
**** ****
トイレットトレーニングといえば、思えば、イワン・タリャーゴフはまあ、普通だと思うが、パミラ・ミミトンはなんともヘクトリューシャには推測しにくいものがある。不可思議なものを感じる。エスーフエルフ・マロマデシャはタヌキだが、いろいろなことに飽きて退屈しのぎを探すことには労力を厭わない。人生に慣れて、ストレスを感じることなく生きられるが、そのかわり、楽しみに事欠くようになってしまっている。ソルコリギター・ソリィコギッチまでいくと、トイレットトレーニングのしすぎなのか、「狂人主義」とか、無茶なことを言い出している。恐らく日本の“サムライ”を何かで知って独自解釈にふけっているのだろう。


2


イギリス ――――
チャールズ(29)は暖炉にまきをくべ、かきまわし、安楽椅子に腰かけた。
「さあ、エマ。『パァンとサアカス』を読んでくれ」
ソファに腰かけたエマ(30)は途中まで読んだ『パァンとサアカス』の続きを読み始める。
チャールズはシェリー酒を飲みながら、考えた。そういえばヘクトリューシャが病気になって、みんなで助けるために冒険の旅に出るんだったな。


ドイツ ―――――
「トニー!まだ、おきているの?もう寝なさい」
『パァンとサアカス』を夢中で読んでいたトニーは本を閉じると続きは明日読もうと机の上に本を置いた。ベットに入ると、夢の中にサアカスの連中が現れ踊っていた。次の日の朝。
「グーテンモルゲン!トニー!おきなさい!」



3


ルターリャは馬車で屋敷に訪れたエスーフエルフ・マロマデシャを迎えに行った。「マロマデシャ先生、ヘクトリューシャはかなりひどい熱で、うなされながら寝ています」「あー。わかりました。最善は尽くすが…とっておきの強壮剤の水薬がダメならその時は――あーどうするか?」長い廊下をあるきながら二人は話した。「私にはヘクトリューシャと同じ年の娘がいる。正確には私の娘ではなく、妻の前の夫との娘だ。私の妻は再婚で私は初婚…」「先生!こっちの階段を上です」「あー、立派な壺だ。壊すと高い?私と妻には子供が生まれなかった。娘は今では医者と結婚して子供がいる。いや、オーケストラの指揮者だったか!?いや勤務医だ、彼は」「先生この部屋です。どうぞ中に…」
エスーフエルフ・マロマデシャはベットでうなされているヘクトリューシャをみるとこういった。
「ご両親とピョートル君を呼びなさい、今すぐにだ。医者じゃなくても分かる。ヘクトリューシャの生命の灯火は消えかかっている。自慢の強壮剤を使っても時間稼ぎだなこりゃ」「そんな!ヘクトリューシャ…先生なんとかならないんですか!?」「まちなさい、今、水薬を」エスーフエルフ・マロマデシャはさじで水薬をすくってヘクトリューシャの口に運ぶ。
ピョートル・イアアとレイチェルモンド卿はヘクトリューシャの枕もとに立ち、エスーフエルフ・マロマデシャは脈をとる。医者は口を開いた。「うん、強壮剤がよく効いたようだ。しかし、もってあと一か月だ。こればかりはどうしようもない」ピョートル・イアアはいった。「…あの、キエフの不思議な屋敷だ。あの屋敷の主人なら、シナかペルシアの魔法の薬を持っているかもしれない!」ルターリャはいった。「ああ!あの不思議なランプの!キエフのおみやげのー」「あのランプはどうしたルターリャ!?どうしたんだ?」「あれは3回使って何も出なくなったけど…」


4


パミラ・ミミトンの店にいったん立ち寄ると、修行帰りのイワン・タリャーゴフがいた。「この刀はもう自分には必要なくなった。返すよピョートル・イアア」「私のじゃないが…」ソルコリギター・ソリィコギッチがいった。「それは私のだ。キエフの不思議な屋敷で修業の成果が思う存分楽しめる」
こうして、ピョートル・イアア、パミラ・ミミトン、イワン・タリャーゴフ、ソルコリギター・ソリィコギッチ、エスーフエルフ・マロマデシャの5人はキエフの不思議な屋敷に向かった。



5


キエフの不思議な屋敷の老人はロシア語でいった。「ピョートル・イアア、この扉を開けたらもう戻ってこれないかもしれないぞ」「この扉の先はシナかペルシアか」両脇の外国人女性は鍵をもっているひとと、長い槍を持っている人の二人だった。一行に両方無言で渡すと、パミラ・ミミトンが扉の鍵を開けた。

6


気がつくと、5人とも牢屋の中だった。すぐにだされ、それぞれ個室を与えられた。中央の広間はベンチが置いてあり、教室のようになっている。外に出るドアはカギがかかっている。5人は数学、ロシア語、哲学、きいたことのないムー帝国の歴史を勉強させられた。ソルコリギター・ソリィコギッチは「こんなことなら、傭兵として戦闘に参加させられたほうがましだ」といった。成績は、ピョートル・イアアとパミラ・ミミトンが上位で、次がエスーフエルフ・マロマデシャ、さらにソルコリギター・ソリィコギッチで最下位がイワン・タリャーゴフだった。パミラ・ミミトンがイワンにいった。「この成績じゃモスクワ大学なんて無理だよ、あきらめたほうがいい」ソルコリギター・ソリィコギッチでさえいった「現役高校生がこの成績じゃまずい。夜遊びのしすぎだ。元の世界に帰ったら学校に戻れ」
教師がドアから入ってきて授業をする。終わると出て行って鍵を閉める。
授業を受けて、自分の部屋で寝る毎日だった。ピョートル・イアアが怒鳴った。「違う!薬を手にいれに来たのに、こんなところで勉強していても仕方がない。しかも、この槍は何のために渡されたんだ?戦闘のためか!」




7


ピョートル・イアアは教師にロシア語でいった。「ヘクトリューシャを助けるために来たんだがここから出してくれ」教師は答えた。「そんなことをいわれても、授業をしろと言われているだけで、部外者はムー帝国の掟ではこう扱うのが適切で親切だと…」ピョートル・イアアはいった。「親切はわかるが病人がいるんだ」パミラ・ミミトンがいった。「試験に合格すると出られるとか?」ソルコリギター・ソリィコギッチはいった。「戦闘の訓練はないのか?腕試しがしたい」教師は上司にきいておくとだけいった。
3週間くらい経ったような気がする。
「まずい。ここのお茶はこれしか種類がない」ピョートル・イアアはいらだっていた。「娯楽といえばお茶と教科書しかないわよ。あきてきたわよ」パミラ・ミミトンがいう。「監獄に限りなく近い」ソルコリギター・ソリィコギッチはいった。エスーフエルフ・マロマデシャは今日八杯めになるお茶を飲んでいった。「やりきれん。教師を襲ってかぎを奪うか?」ピョートル・イアアはいう。「話し合いでは埒が明かん。いつまでたっても、申し込んだ書類が上で処理されないしか言わん」イワン・タリャーゴフがいう。「修行で会得した能力…」彼はお茶以外のもう一つの娯楽、壁に一つだけかかっている絵をみた。ボートが海に浮かんでいる。海の水がどんどんあふれ、ボートが絵から飛び出してきた。5人はそれに乗ると、絵がトンネルとなり個室と教室の白い建物を抜け出せた。
津波がおこり5人はバラバラにそれぞれの岸についた。







8 エスーフエルフ・マロマデシャの話



マロマデシャは気がつくとベットに寝ていた。真っ白な壁。さっきの建物に連れ戻され、介抱されていた。看護人は、無茶をするから溺れるんだといって、他の4人が迎えに来るまであなたはここでくらさなければならないと告げられた。それはおそらく10年後くらいになるだろうと。(そんな…お茶と絵がひとつだけと教科書しかない白い部屋で10年も…サアカスが欲しい。他の4人はどこに流れ着いたんだろう)
11年、この世界ではそれだけ時間がたっても、ヘクトリューシャのいるロシアでは1分もたっていないのだろう。しかし、エスーフエルフ・マロマデシャは年もとらず11年ここで過ごした。お茶を飲み、絵を飽きるまで眺め。(絵は11年間同じものだった)授業は休講のみ(人数が一人に減った)教科書を読み。とある日、エスーフエルフ・マロマデシャはいつもと同じように、お茶をカップに淹れ、机に座り教科書を開いた。ドアが開き、あの4人が立っている。あのときと同じ年恰好で。エスーフエルフ・マロマデシャは教科書を放り出し、カップを机に置いて、立ち上がった。

9 パミラ・ミミトンの話


パミラ・ミミトンは気がつくと豪華な寝台に寝ていた。海辺に気を失い倒れていたところを“炎の女王”が助けてくれた。炎の女王はミミトンの体がよくなると、自分の仕事を手伝わせた。裁判を下すのがパミラ・ミミトンの仕事となる。毎日、大勢の人が争いごとや相談事を持ちこんでくる。パミラ・ミミトンの個人の裁量で裁きを下し、判断しかねるとき、炎の女王に相談する。パミラ・ミミトンは気がつくとこの仕事を10年間もやっていた。給金ももらえた。液体のお金がこの国の通貨でガラスの瓶にメモリがあり液体のお金を入れる。買い物の時は目盛りで液の量を測ってやりとりした。パミラ・ミミトンはかなり金持だった。年は10年たってもとらなかった。休日もあった。話し相手と言えば、炎の女王か相談を持ってくる人々だけだった。自分が買い物をするときは店の人と話すが全員女性で決まり切った挨拶しかしない。不思議な世界だった。

10 イワン・タリャーゴフの話


(ああ、イーストでふくらませたパンが食べたい)イワン・タリャーゴフは階段状に道路と商店や民家が螺旋に並んだ巨大な塔に住んでいた。液体のお金が一か月ごとに振り込まれる。時々、階段道路の修理の仕事に引っ張られる。店にはイーストを使わないパンしか売っていない。イワンの部屋は塔の中間くらいの高さに感じられたが、正確にはわからない。ムー皇帝が頂上に住んでいるという。ムー帝国の主なら、ヘクトリューシャの病気を治す薬をくれるかもしれないという。(階段を上るか?)しかし、階段を上ると、階段道路で夜寝ることになる。勝手に人の部屋には住めない。しかたなくイワン・タリャーゴフは自分の部屋に7年の間暮らした。
ある日、およそ4年目の暮らしの時だったと思う。イワン・タリャーゴフの描いた絵が表彰されることになり、数螺旋下にある大会場であいさつをおこなうことになった。人が大勢集まっている。壇上で緊張し、イワンは舞い上がった。(こういうときは一人一人をナスだと思い、≪なろう、なめんなよ!≫と念じる。うん、ここまで恥ずかしい思考を考えると不思議と落ち着く。人間の心理だ)
イワンは講演で適当なことをしゃべり、拍手がおこる。
そして、またいつもの生活に戻った。


11 ピョートル・イアアの話


イワンと同じ塔の最上階に近い部分にピョートル・イアアはいた。ムー皇帝に謁見の許可をもらい、それが3日後となった。与えられた仮の自室でピョートル・イアアは役人にいった。「ムー皇帝は話せばわかる。ばらばらになった仲間のこと、ヘクトリューシャの病気のこと」
謁見の時がきた、ピョートル・イアアはすべてを話し、ムー皇帝に協力を願った。皇帝が答えて言うには、「協力の願いを聞き入れるいかなる根拠も見つからない。ただ、お願いしますというだけで、特別扱いを認めるわけにいかない。虫がよすぎる。おまえはただ、お願いしただけで人に言うことをきかせられるほど偉いのか?たとえ税金を使うにしても、なぜおまえを国民の中から優遇しなくてはいけないのか。おまえを優遇するだけのことを、おまえはムー帝国のために何かしたのか?」
ピョートル・イアアは自室に下がった。
「確かに頭を下げただけで虫がよすぎた。ロシアだろうと、この不思議な国だろうと、人々は誰でも問題を抱えて生きている。それなのに僕だけ手助けをもとめるいかなる理由もない。皇帝のいうとおり協力してもらうに見合う働きをしよう!」
役人は砂漠の街で砂漠の魔人が暴れていることを話し、それを退治することが解決の近道だといった。そして、あなたに面会にきているものがいるという。ドアを開けて入ってきたのはソルコリギター・ソリィコギッチだった。手には新しい刀をもっている。「砂漠の魔人を倒しに行こう、ピョートル・イアア。フリーで税金を動かせるほどいつからお前は偉くなった?」
役人はピョートル・イアアの持っている槍を聖なる槍だという。



12


ソルコリギター・ソリィコギッチとピョートル・イアアは階段道路を下りて行った。
「その剣はどこで手に入れたんだ、ソリィコギッチ?」ピョートルは尋ねた。「よくある話だ。一つ目の巨人の脳天をボロボロの日本刀でかち割った。すると喜んだ市民がこの刀をくれたんだ。あの巨人は人喰いだった」
永遠に続くかのような長い階段道路を下りていく。ふたりはときどき休憩をとりながら一日歩いた。
そしてすぐに夜になった。「ホテルはないのか?ここの国では」ピョートル・イアアがいった。「ない。民家や商店におしいるわけにもいかないから、階段で野宿だ」ふたりは階段道路で寝ることにしたが、焚き火もできず、食料は金がある限り路の左右の店で買えるが、居心地の悪い思いをしそうだと思った。
すると、そのとき、こじんまりとした屋敷のドアが開き、婦人がなかにはいれという。ピョートル・イアアはこの婦人にどこかで会ったような気がした。中に入ると、ソルコリギター・ソリィコギッチがいった。「貴殿にはどこかで会ったような気配がする。あやしいやつ!御用でござる」
ピョートル・イアアはあわててとめた。「まて、いちいち抜刀するな」
不思議な婦人は言った。「わたしはヘクトリューシャ・レイチェルモンドの母です。ピョートル!ずいぶんおおきくなりました」







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