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2013年12月7日土曜日

Another War ―もうひとつの戦争― 第三部

















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Another War  ―もうひとつの戦争―  




Another War  ―もうひとつの戦争― 












1


アルキポたち数名の隊員はデカポリスからメガロポリスに召集されていたが、これから帰還する。
一行は軍事用移動用の車両、フリーカゥボーィに乗り込もうとしている。
アルキポがいう。
「忘れ物ないな。じゃデカポリスに帰るぞ」

フリーカゥボーィは走り出す。

アルキポはジュールの話をしていた。
「あのジュールってやつ、身長180cmか、ないくらいだけど存在感ででかく見えるんだ。なんかただものじゃないっていう雰囲気で」
「俺たちとなんか違うな」
「オレなんか175ないんだぞ。若いのに優秀って誰が決めたのよ!?大学もいってないのに時空警察はいったんだぞ。ペーパーテストなぜかうかって。頭悪いのに試験通るんだ」
「おまえ、ペーパーテストの成績いいよな」
「若い時からやってるから、勤務ながいよな」

メガロポリスとデカポリスを隔てる大きな橋群にむかう。




2


セルウィウスはタナトス・パレス・ホテルのベットで日の出とともに目が覚めた。
窓の外は高層階だ。何階だろう?
メガロポリスのシティが映る。

モーニングセットはトーストとコーヒーだった。
ハムエッグとバターと厚切りのトースト、コーンスープがついた。
コーヒーに砂を四角に固めたような角砂糖がついている。サイコロのようだ。
やはり朝刊がついてくる。
広げると古新聞を丸めたようにインクと紙の匂いが部屋に広がった。
カップを口にしながら、モーニングのコーヒーの匂いと新聞紙の匂いはマッチするとそのとき思った。

タナトス・パレス・ホテルの朝のロビーはあいかわらずだった。
喫煙室でたばこをふかすもの、携帯電話で誰かとやりとりしている人が多い。なにか情報を追っている。モバイルで何かを追っている人、新聞を見やる人、興奮してやるきが攻撃的との境界線を行ったり来たりしている。

「まったく、メガロポリスはグレートにビュズィなようで…」

マンデンブルー大佐が見送りに来た。
ジュールはいない。

今日セルウィウスはロケットで帝国に帰る。



3


アルキメデスのクリスタルタワー最上階の専用喫茶室。
グラウディウス帝とその夫人がアルアロリア妃と会話している。
結婚相手のことだ。

グラウディウス帝がいう。
「三人とも優秀な人物だ。将来の時空警察のトップになる候補だ。ヴィクターという若者など国士無双と詠われておる」
婦人がいう。
「国士無双って三人もいるじゃないですか。でもアルアロリアの結婚にふさわしい相手でよかったわ」
「アルアロリアに異存がなければ結婚相手はヴィクターという青年に決まる。いいな?アルアロリア…?」
「…ええ」

婦人は厳しそうな顔をしていう。
「アルアロリア…人間、見染められるかどうかを楽しむ恋もあるかもしれません。結婚してしまえば大真面目にしてなければいけないのでつまらないと思うのはどうかしら?」
帝もいう。
「鯱鉾ばっていなければいけないからな」
「ええ、心得ております」

この時点でセルウィウスが持ちかえった時空警察の情報などを考慮して、アルアロリアの結婚相手はヴィクターと内定していた。




4


フォルトナトはペットに毛の青いサルを飼っていた。
ブルーモンキーとよばれる青猿は人語を話し、いつもフォルトナトの相談相手をしていた。
なかなか冴えて機微のあることを話す。

「ホラ、バナナだパパナ」
「キッ!」
パパナはバナナをもって口にくわえると両手でつるしてあるうんていをつたった。



5


グレートシティにある時空警察の建物は本部に行くにしたがってマジックガードで通行できないようになっている。
一般人が詰めかけられる建物と、隊員以外進入禁止のエリア、さらにおくにいくとランクが上の者でないと通行できない。


ジュールの向こうからヴィクターが歩いてくる。
ジュールがオーラを放出してパンチをくりだす。

シュゴッ! 4510
バシッ!

ジュールのパンチをヴィクターはこともなげに握りつぶす。
「ひさしぶり…かなり長いこと会ってなかったな」
「きいているかい。帝国の偉い人との結婚。いまから破談になったら断首になるよ」
「俺たち三人だけがきかされているようだな。そっちもきいていたか。婚礼の相手はオレにきまった…」
ジュールはコクとうなずく。
「ごくろうさん…それとおめでとうは早いか。権力者になって権力で遊べるなんて思う奴は、最初から権力者になれない」
「…女もだ。男と生活(ライフ)を送りたいんじゃなくて遊びたい。そんな奴はたくさんいる」
「…」




6


「我が妻となれ…」
「ヴィクター様」





「とか、やりだすんだよ、あの二人は」
「不謹慎だぞ、ジュール」

メラネウスとジュールはグレートシティのある湯豆腐屋で食事をしている。
「ヴィクターとは最近会ってなかったけど古い友人なんだよ」

二人分のなべに豆腐としいたけ、こんぶ、長ネギがグラグラ煮えている。
すくってポン酢のたれにつけて食べる。

「でも、まあこれで帝国とも不可侵条約成立といってもいい流れだ」メラネウスはビールをジュールのコップにつぎ足した。
「条約なんて本当にいざとなったら破り捨てられるよ。政府はなになに条約を破り捨てろ!、とかって。歴史が裏づけしている」




7


フォルトナトが通路を歩いていたとき、誰か通り過ぎようとした。
反射的にフォルトナトはただならぬ気配でビクッとふりむいた。

ヴィクターが鎧を着て歩いている。
落ち着いているが、人を押し黙らせるような殺気を秘めている。
磁石がくっつくのを避けるようにフォルトナトは距離をとった。

背中に汗をかいている。
「これはこれは、あの時空警察の戦士ヴィクター殿じゃないですか。警察の中なのに少年院上がり並みに顔の固まった奴が歩いていると思ったら」

少しうれしそうにヴィクターがいった。
「権力者になってそれまで失礼なやつらだと思っていた奴に下がれと威圧したら、そうでない者たちまで近づかなくなるだろう」

「これだけ鍛えたこのオレでもビクつくほどの殺気は抑えたほうがいい。歩いているときくらい。王子様みたいな顔でもあるけど怖いんだよ。少年院にはいったほどの不良かい」
「殺気じゃない。不良などペリカンスクール(小学校低学年)でやめた」
「それじゃ、お大事に」
そういってフォルトナトは大柄な体で歩いていった。


アルアロリアは母に呼ばれた。
「アルアロリア、ヴィクター殿にお会いするときに着ていく服とバックを注文してデザインさせるから、エルモートタウンのブティックにでかけるわよ」



8


時空警察内部のオフィス

それほど広くない業務用ルームに、デスク4台ほど横に並び、軽いしきりで区切られている。
ジュールが席に就こうとする。

白髪のこの時空警察内の書類仕事を担当するオフィスの統括管理者、フォアードさんが話しかけてくる。
「いつまでこの部署にいるのかね」
「アンテナショップの店長は終わったけど、ここはいつまでだろう?」
「まあ、ゆっくりして行きたまえ」

グレーのカーペットで観葉植物が室内のすみに茂っている。
はっきりして目立つ位置に植物を飾るより、見えにくい位置のほうが茂っている感触がする。
自然の樹木は乱立して全体が見えにくいからか…
表計算ソフトで時空警察全体の会計書類、データ書類作成などを作成する仕事を担う部署だ。

フォアードさんが半分ひとり言のようにいう。
自分も席についてコンピュータの画面を見ている。
「帳簿とか簿記会計の書類を作成するのがここの仕事だ。提出する書類によって型が違う。教えたはずだ…」
声がかれている。
「書類が作成できたら、時空警察の内部イントラネットに公開する書類、外部のインターネット上に公開するもの。必要な部署に送信返却する書類、内部のサーバーに保管する書類、提出する書類、種類によっては確認が終了した書類も印刷して6年間は保管する義務になった」

興奮しすぎないで落ち着けるが新鮮なデザインのオフィス空間。
フォアードさんは年寄りなので延々と語り出すが、返事をしなくても意に返さないので、落ち着いて聞き流せる。

「時空警察の勤務は先が長い、落ち着いてゆっくり頑張りたまえ」

そういって業務用ルームをでていった。
ジュールは表計算ソフトを起動して、書類を作成しはじめた。

作業に没頭して、頭が空になって何時間か過ごした。
コンピュータのキーをたたき、書類を作っていく。
作業用ルームをでて、通路を歩くと、広いオープンルームがある。

ジュールはあらゆる通信から切り離されて表計算ソフトの書類に没頭していたので、人がいるオープンルームに行くと数時間前と世界の状況が変化しているような錯覚にとらわれた。

大型TVがついている。
無料で飲めるコーヒーをセルフサービスでカップに注ぐ。
すべすべした金属の漏斗のような口からものすごい圧力がかかっているかのようにゆっくりとコーヒーがでてくる。
どこで落としたコーヒーを補充しているのかわからない。
湯気が上がる。

砂糖のスティックとプラスチックの小さなスプーンをもってTVの前のテーブルに持っていく。

さっきのフォアードさんがバインダーノートをひろげて何かチェックしながら、半分TVをみている。
ジュールをみると声をかけてきた。
「しごかれていると思うと、苦労しても耐えられる…働いたという感慨を得られるうえ、頑張った見返りを期待できる」
そういって笑った。

ジュールは編隊を組んだ演習のことを話した。
「…将来は将校かね。んっふふっふっ」
「ぼくが給料を払っているわけでもないのに、ぼくの力だけで号令をかけるんだよ…」
そういってジュールはカップをすすった。
「そうかね。そりゃ大変だ」

TVをみると、ニュースで時空警察特別防衛隊の結成がいまだ完了していないと報道されていた。
「ああ、あれまだなのか…」
無機質な表計算ソフトと数時間向き合いっぱなしだったので、外をうかがえるTVニュースをみると、異空間から脱出して人とつながったという気になる。

「人をまとめるマネージャーや私みたいな責任者になると、常に人間のストレスにまとわりつかれる気分になる。そんなとき書類仕事にはいるとスッキリ忘れることができることもある」
そうフォアードさんはいった。

ジュールはヴィクターのことを話した。
「タナトス・パレス・ホテルの隔週に一回しか営業しないレストランとかで食事するんだよ。たぶん。自分のレストラン休みのときにしか出張でホテルの店開けられないんだとか」
「ハッハッ、腕のいいお医者さんが総合病院に隔週で来るみたいだ。君の友達も結婚かね」


女性の時空警察の事務員がふたりの横に立っていた。
「あれが特防隊ですか…はじめてみました」
ジュールはしばらく無言だったがこういった。
「あれは隊員かなあ。制服とイメージを知らせるためのメンバーかなあ」

「通信連絡インフォメーションの勤務はどうかね。あっちも大変だろう」
メール、電話、ウェブ、などで事務的に連絡事項を伝える仕事もある。
難しい判断など含まない、単純連絡仕事をになう。

「ええ、そんなに今日は忙しくないですけど」


そのころアルキメデスでは…
アルアロリアが母と話していた。
「読書と音楽が友達で、男性と知り合ったことのない私がヴィクター様と本当に仲良くなれるのかしら!?」


アルアロリアとヴィクターの出会う日が近づいていた…




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