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2014年8月13日水曜日

休日の鳥2


 休日の鳥2








時空小説の直前に書かれた


 古代都市テーベとマケドニア地方のイスカンダール城


1

はるかな昔、ギリシアの古代都市テーベで、正午過ぎ、二人の若者が槍投げに興じておりました。
タレスとアルセウスのふたりは、あまりに力を入れて投げたため、マケドニア(ギリシアの北にある)のイスカンダール(アレクサンドロス)大王の城まで飛んでいきました。
ふたりは「まずいなあ……」「誰か何とかしてくれないのかなあ」と口を開けて考えていましたが、間もなくおふれがでて、槍を投げたものを連行しろとのことでした。
テーベの若者、タレスとアルセウスは縄で縛られ、マケドニアのイスカンダール(アレクサンドロス)大王のもとにつれていかれた。
イスカンダール大王はいった。
「君たちが投げた槍が窓からふってきて、エトルリアの壺が壊れた。弁償してもらいたいが、バビロン(バビロニアの首都)との戦争に備え密偵として様子を探ってきてもらいたい。君たちに槍は物騒だ」
そういって、銀と金で装飾されたナイフをわたされた。
「もしもの時は売り払って旅賃にかえるといい」

それから半年後ふたりは、イスカンダール城にもどってきた。
「バビロニアは農業や牧畜や経済がうまくいった時代が長く、生活が貧しい国にくらべ血の気が少ないのが特徴のようでした。それに、畑を耕しすぎて土地に塩害がでております。バビロン人はながくその土地(バビロニア)にいすぎたのです」
大王はいった。
「君たちのように血の気の多い若者は生き残りにくい社会ということか」


2

それから、イスカンダール王は小王国の姫、ヤーマヤーンカーハーフォールン姫に恋をし、高級品のクリームを小壺にいれ、タレスとアルセウスに届けに行ってほしいと頼みました。
二人はラクダにのり旅にでて、なんなく小王国につきました。
宿にラクダをつなぎ水を飲ませて、休めました。
自分たちも酒と肉をたべ宿でぐっすり眠りました。
次の日クリームの小壺をわたしに、ヤーマヤーンカーハーフォールン姫の住む離れ屋敷に向かうと、門番がおり、イスカンダール大王の使いだと話しても入れてくれませんでした。
タレスは怒り「あー!!!」と槍を力任せに投げました。
門番はよけられず心臓を貫き即死しました。
門番の男はヤーマーヤーンカーハーフォールン姫の兄で、問題になり二人はつかまりました。
二人は牢獄にほうりこまれましたが、夜中にぬけだし、居酒屋かえりの街びとを二人さらうと首を刎ね、牢獄まで運び、自分たちの身代りにしました。血のついた短刀をおいて。
さらに、離れ屋敷に忍び込むと、枕もとで泣いているヤーマーヤーンカーハーフォールン姫に窓の外から話しかけました。
「お姫様、どうして泣いておられるのでしょうか?」
「兄が亡くなりましたの…」
「お心の慰めになるかわかりませんが私はイスカンダール大王の使いで、このクリームの小壺をお渡ししたいと思います」
「それと質問があります」アルセウスがいった。
「わたしはギリシアのテーベの都が出身ですが…よい知恵を出すには何人いるのが適度でしょうか?多いほど良いのか?少ない方がいいのか?」
姫は即座に答えた。
「ある問題の答えは誰か一人が解決すれば同じ道を何度でも使えます。つまり、人数が多ければひとりあたり知恵をひねる苦労が減るでしょう。(文殊の知恵)しかし、人数が多くなるほど、人任せになり責任を負わなくなります。頭のよい人がいても、そうなるでしょう。するとよい知恵が出てこなくなるでしょう。つまり知恵のある国とは、責任ある立場の人が多い国で、智慧と賢さとは責任から生まれる。そう教わりました」
ふたりはパピルスにメモをかき込み。挨拶(サラーム)を述べて引きあげました。
二人はラクダに乗りイスカンダール大王の城に戻ると報告に向かいました。



3

王室のドアの番兵に用件を伝えると、執務係に手続きを取ってくれと断られ、二人はそうしました。
連絡が来るまで街の宿屋で、塩茹でのジャガイモを食べ、水で薄めたワインを飲んでいました。
タレスとアルセウスは酔って、槍の試合を始めました。
タレスが「あー」と吠え、槍を繰り出すと、アルセウスは槍の先で受け止め、さばき返しました。アルセウスが真上に槍を持ち上げたたきおろしました。「おおおー」タレスが柄で受け止め試合は終わりました。
宿に戻ると、執務係が酒を飲んでいます。
タレスは顔を何度か見ているので気軽に話しかけました。
「おい、じいさん仕事は終わったのかい」
「後は明日の仕事さ、書類も帳面もみたくないね」
「おきのどく」
アルセウスが話しかけました。
「千物語の面白い話しでも聞かせてくれ」
「そうだなあ、スライマーン(ソロモン)の指輪を手に入れた女の話があるな。しかもスライマーンは文献に大魔王とかかれている」
タレスがいった。
「大魔王なら、オレの槍で倒してやるのに、イスカンダール大王の使いとして…」
執務係は聞いた。
「ときに…ヤーマーヤーンカーハーフォールン姫をみてきたのかい?どんなお姫様だった」
「こよなく、ふくよかな小母さんになりそうな女性だったな」
三人は夜更けまで水割りワインを御馳走になった。



4

翌日宿で日が高くなるまで眠りこけていると、連絡かかりの兵士がやってきて、二人をたたきおこした。
大王の謁見の間に通されると、大王はきいた。
「それで首尾はどうだった?」
「それが、姫には身内に不幸があったようでして」
「不幸?」
「流行りの疫病のような。流感でしょうな」
「小壺はわたしたか?」
「首尾よく」
「質問の返答は」
「それが、えーと」
パピルスを読もうとしたがタレスもアルセウスも文字が汚く、読むに読めませんでした。
「姫の返答は大王自らの仕事だと存じます」
「フム…?わかった、正式な使者を派遣するが、お前たちの褒美は自分で決めるがいい。後日、届を出せ」
イスカンダール大王はそういって、二人をさがらせた。

5

イスカンダール大王はヤーマヤーンカーハーフォールン姫と結婚し、ある日の夜、夫婦で酒宴を開きました。楽師が呼ばれ、入ってきたのはタレスでした。
「なんだ?お前が音楽を?」
「私も夜は楽器を習っておりまして、シラクサの音楽を奏でたいと…」
「シラクサ?お前の故郷はテーベだったような」
「いえ、シラクサからも音楽が伝わってきておりまして、夜演をと」
姫はあのときの使いの者だと気付きました。
「ああ、あなたは…」
タレスはお辞儀をすると楽器を演奏しました。
演奏が終わるとタレスはさがり、イスカンダール大王は二人で酒を飲み始めました。
大王は先の智慧の問題を話題にすると姫は依然と同じ答えをしました。
「なるほど、あの二人は余をからかう悪知恵がありながら、肝心のことにいい智慧を出さないのはそういうわけか。責任ある立場に二人を任命しよう」


6

またある日の夜。音楽士を呼ぶと、タレスがはいってきました。
「なんだ、また、お前か?」
「なんなりと…それでは、シラクサの音楽の演奏を…」
「それより、面白い話を聞かせてほしい」
「それでは世界にいくつかあるという楽園(アドン)の話を…」


戦士ウリヤは城のなかのある一室のドアを開けると中に入った。
そこは王宮の図書室で、十くらいの男の子が机に向い本を読んでいました。
ウリヤは静かに近づき考えました。
(あれが…おれの子?本を読んでいる。おれの子が?王さまに育てられたたせいかな)
男の子は気がつくとお辞儀をしました。
ウリヤもつられて頭を下げると、男の子はこう言いました。
「こんにちは。あなたは?」
「こんにちは、王子様。私は国の兵士でウリヤともうします」
(なんだ…。なんだか女の子みたいな男の子だな。もっと活発だとおもって…)
このときのウリヤにはわからなかったが、育ちがいいのと、常に人に気を配る性格からこのような態度になるのだった。
「なにか、僕にご用ですか?」
「いや、何の本を読んでるのかと思って…」


「この男の子は王様の子なのか、兵士の子なのか、正確にはわかりません。本当に貞淑な娘はその夫にしか肌をさらしません。ほとんどの女性は夫にそれほど従順でもなく、大事にされる必要がないのです。
よいことをしたものが、死後、楽園(アドン)に入れるとしても、どの楽園に行くのか?、選択できるものもあれば、決められているもの、どこにも入れないもの、さらには、地獄行き…さまざまであります。

そのひとつはエデン。
エデンの園はジャングルに似ているといわれております。
南アフリカ、エチオピアよりさらに南下した土地に似て、
ピソン、ギホン、ヒデケル、ユーフラテスの四つの川が命の水として流れ、
バナナ、なつめやし、ぶどう、西瓜、メロン、にがうり、たまねぎ、イチゴ、パイナップルなどさまざまな果物に満ちております。
この世界(アドン)のりんごは善悪を知る木になり、食べると善悪を知ります。
動物に善悪があるでしょうか?死後、悪さをしたため地獄に落ちる犬や猫がどこにおりましょうか?彼らには自由なる意思がないのです。魂さえ人間のようにはないのかもしれない。
人間はそれまで発情期がありました。そのため裸で、しかし善悪の木のリンゴを食べたために発情期を失い裸が恥ずかしくなりました。
そのほかの楽園には、西の果て「ヘスペリデスの園」。バビロン(バーブイル:神の門)、地上のバビロニアにあるバビロンが門となり楽園(アドン)とつうじております。楽園の名もバビロン。機械仕掛けの都市世界の楽園であるといわれております。空中庭園やら、水を汲まなくても自動で水が畑にまかれるという。
これ以上はまたの機会に話しましょう…」


7

「……それでは楽園(アドン)の話のつづきをいたしましょう。
楽園と縁遠い女性は、男性に従うことが嫌いなのです。女性はおおらかに本能を満たそうと浴するので、従うことがきらいです。ちょうど動物が本能に従って走るに似るのです。そのため、男性をおのれの欲のためにこき使おうと努力します。男性の命令を嫌い、そむくことを快楽とし、逆に命令したがるのは女性の本来ではありますが、教養という外部の物が手にはいらなくなるのです。
女性が欲しがる楽園とは男性(天才)にしか作れないため、女性のみでは動物以下の生活をすることになるのです。
女性は本能に逆らい男性に従うのが仕事で、男性の仕事とおなじくつらい作業であります。手に職をつけた男性は高齢まで手づから、稼ぐくことができるように、教養を身に付けた女性は男性に従うのが楽になります(マナーを知るようになる)
世界にいくつかある楽園(アドン)には
四つの生命の川と禁断のリンゴ、エデンの園。神の門とつながる都市国家バビロン。至福者の島、エリュシオン。北欧神話のバルハラ宮。黄金のリンゴのヘルペリデスの園。………」

8

「…エリュシオン(エーリュシオン)は至福者の島とよばれ、オーケアノス海流の近くにあるといいます。立派に戦った英雄、聖職者などが死後いく楽園で“エリート”の語源であるといいます。薔薇の香り、ポプラの木、温暖な気候と風、
労働の後の休暇のような静かな安らぎがそこにあるといいます。
至福者の島の巻き貝は楽園(アドン)から、遠く持ち去っても、それを耳に当てると、さざ波とともに、そこで奏でられる音楽と、芳香、潮風がつたわってくるといいます。
エデンとやや違うのは、食べ物(果物)に満ちたエデンと芳香、安らぎ、音楽、さわやかな風に優れているのがエリュシオンであるといえるでしょう。」




9

今夜のところは水入らずで…という大王に、
「なんですと!?私の楽器の音色がききたくないとおっしゃいますのか、大王!?」とタレスがいう。
「いいじゃありませんか。楽器の音楽と楽園(アドン)の話を…」
ヤーマーヤーンカーハーフォールン姫がいう。
タレスが音楽を奏で終わるとこういった。
「それではアドンの話ですが、どの楽園について語りましょうか」
ヤーマーヤーンカーハーフォールン姫は「それでは、ヘルペリデスの園のお話を…」
イスカンダール大王はいった。
「ちょうど、この杯の酒にあいそうな楽園(アドン)だ…。果物から造った酒かな?」
「リンゴのお酒を用意しました」

「黄金のリンゴとは、オレンジのことだという人もいます」
「なるほど、たしかに黄金の色だ」
「女神ヘラが結婚祝いにガイアからおくられた黄金のリンゴの木は、西の果ての楽園(アドン)に植えられました。
エデンのリンゴは善悪を知るリンゴなら、ヘリペリデスのりんごは黄金のリンゴでした。三人の女神ヘリペリデスは黄昏の女神で、父アトラスがそばで天を支えています。プレイアデスもアトラスの娘たちです。アトランティスという大陸が昔海にあった問う伝説がありますが、アトランティスとはアトラスの女性形であります。ヘリペリデスやプレイアデスと関係があるのか…
百の首がある竜ラドンが黄金のリンゴを守っております」
「楽園に竜がか?!」イアウカンダール大王は盃(さかづき)をおいていいました。
「うーん。リンゴと蛇がエデンと共通のようですが」ヤーマーヤーンカーハーフォールン姫は口にしました。
「楽園に近付いた人間はペルセウスとヘラクレスです。メデューサを退治した後、アドンで休ませてほしいと空から来ましたが、アトラスにおいはらわれました。後日、ペルセウスの孫のヘラクレスはアトラスの代わりに天を支えて黄金のリンゴをもってきてもらいました」
ヤーマーヤーンカーハーフォールン姫がいいました。
「絵になる光景だと思います。至福者の島もエデンも美しいですが、少人数の楽園ですが幾何学的にまとまっていると感じます」
タレスがいった。
「バランスがいい楽園です。怪獣ラドンに三人の乙女、近くに父巨神アトラス黄金のリンゴの木。それぞれ役割(仕事)にかかわっていますし、休暇もある。訪問者がたまにある。
楽園(アドン)は優秀な人ほどいくつもの楽園(アドン)を通れる。優秀という言い方もおかしいでしょうが。私など人を殺しましたが、いやこれは失礼。立派な戦士をめざしていますのでどこかの島など、受け入れてくれるか。」「君は物騒だ」「ヘリペリデスの園など、入る許可は非常にまれでしょう。稀有な楽園(アドン)といえるかと…」
「希少価値がありそうだな」
「私など、珍しい武器や防具があるのではと勘繰りまして」
「戦士の血か…下がってよいぞ」
「それではまた」


10

夜になるとヤーマーヤーンカーハーフォールン姫はいった。「イスカンダール大王さま。楽園(アドン)のお話を聞きたいと思います」
「のこりの楽園はバビロンとバルハラ宮か…よろしい。」イスカンダール(アレキサンドロス)大王は呼び鈴を鳴らすと、待ち構えていたようにタレスが入ってきた。
「およびでしょうか、大王さま」
「入ってくるのが早すぎる!君に待ち構えられると薄気味が悪い。事務仕事に呼ばれたように来なさい」
「投げ槍など持参しておりませんが…それではバルハラ宮のお話を」


「北欧神話の主神オーディンの城であり、戦死した戦士が死後むかえいれられるといいます。540の扉があるといい。バビロンに似ている作りなのかもしれません。ほかの楽園と違いぬるくないのは、昼間は軍隊のような厳しい訓練が始まります。ラグナロク(神々の最終戦争)にそなえてのことです。つまり、オーディンの軍隊を養成しているので安楽な楽園とも違います。もうひとつの城塞楽園都市バビロンはすでに陥落されたとの噂もあり、警戒を強めているのです。
夜は美女ワルキューレに給仕され酒宴とごちそうのやまでもてなされます。
しかし、水商売の女ではなくそれぞれ戦士の妻であります。
水商売女など大王にはお勧めできないのは、政治や国のはかりごとなど、水商売女は金でほかの男に給仕するため、情報を漏えいします。さらには男とつがいになる能力に欠けるため、おたがい夫婦になりにくく、容易に相手を他人に売る女です。
大王には当然勧められません。
しかし、他人の女にお酌されるのが好きな人もいて、それはその人の趣味かもしれません。他人が口を出すことでもないのかもしれません。
その人の肌に合えば楽園であり、窮屈であれば地獄です。
人によっては楽園が苦になるのです。
さがせば水商売女をよしとするの楽園もあるのかもしれません。
キルケーとかスキュラ、リリスの小世界など、あるのかもしれません。
「アダムの最初の妻といわれるリリスか…」
原罪を克服するためにアダムとイブはエデンを追われたのです。
しかし、原罪を完全に克服した者など、救世主(メシア)を含め、世界にわずかしかいないでしょう。
アーダムの子(人間)には難し。原罪は越え難し、楽園は遠し。
原罪を克服したその時こそ、永遠の楽園に限りなく近づくとラジエルの書にかかれております。火星(ミルリク)の乾いた土地や土星(ゾハル)の形を成さぬ土地にも潤いと、澄んだ空気がよみがえり、緑と動物と果物の楽園とかすることでしょう。
バビロンを含めたこれらのアドンすべての許可証を得ると、その上にあるという楽園、宇頂天(うちょうてん)に行くことができるといいます。」



11

ヤーマーヤーンカーハーフォールン姫はいった。
「わたくし、結婚する前、兄が亡くなりましたけど、どこかの楽園にいらっしゃるのかしら」
タレスはいった。
「彼は偉大な戦士でした。きっとバルハラ宮で日々鍛錬を重ねているでしょう」
「兄をご存じで?」
「いえ、すこし…」
イスカンダール大王が口をはさんだ
「楽園でありながら陥落寸前というバビロンについてききたい。いったいどういうことかな?」


バビロンは地上のバビロニア(バビロンの土地)にある、バビロン(バーブイル:神の門)から出入りできるといいます。
バビロンの空中庭園やジッグラッドなど、城塞楽園都市でありますが、欠点といえば高慢になりがちなところでした。ある時代のバビロンなど額に傷がついただけで追い出された男もいたとか。
植物にも恵まれ、澄んだ水、整った下水、道路、清潔で快適な街。果物と芸術、などが特徴で、スフィンクスの像、ムシュフシュ(守護神のドラゴン)の石造、
巨神像など、建築物も芸術風であるといわれておりますエデンやヘリペリデスにもわき水がありますが、バビロンには噴水、温泉があり、浴場(ハンマーム)にはライオンの像とナツメヤシがあるといいます。

ところが…
永い間、つづいた、栄華を極めた楽園都市でしたが、神の門を通らずに進入してきた化けものに侵略されつつあります。
腕が4本か6本もあり、胴体が蛇の蛇女で、バビロン城をしっぽでひと巻きにするほどの巨大さです。体がバビロン城と同じくらいの大きさで、
勇者アロンが、自分の持つ最強の剣で戦いました。
激しい戦いのすえ、蛇女の腕を一本切り落としましたが、勇者アロンといえ、最後は石に変えられてしまいました。
バビロンに住む女たちも次々と石にかえられ、石像だらけになりました。
男は武器を持って戦いましたが、異常な強さで、ほとんどかないません。
いまだ闘いは続いているとか、もはや、陥落したとか、噂になっています。

ここまで話したとき、イスカンダール大王は云いました。
「余の軍隊でも太刀打ちできそうにない話だわい」

エデンは善悪の実を食べると楽園を追われ、エリュシオン―至福者の島は長くいると安らぎの風を感じなくなり、また旅に出たくなるといいます。ヘリペリデスの園は稀有であり、中に入ることは困難で、アトラス(巨人神)が見張っています。バルハラ宮には厳しい訓練があり、バビロンは陥落寸前といわれます。楽園にも問題があるのです。



12

ある日のお昼近く、ヤーマーヤーンカーハーフォールン姫は青空の下、外にテーブルとイスをだして、お茶を飲んでいました。
野原の草わらに出したイスに座り、空を見上げ、風にあたっておりました。
そこにタレスが通りかかりました。
「タレスさん、どちらへ?」
「ヘエ、山に行ってきます」
イスカンダール大王がやってきました。「昼食は外か…おい、なんだお前も一緒に食べろ、もうじき、ハムとパンとワインが1パイン運ばれてくる」
「それでは…遠慮なく相伴にあずかりまして」
「それと、楽園の話をもう少し聞かせてくれ」
「わたしも楽しみでございます」


キリスト信者の『ペトロの手紙』の結びの言葉にこうあります。
わたしは、忠実な兄弟と認めているシルワノによって、あなたがたにこのように短く手紙を書き、勧告をし、これこそ神のまことの恵みであることを証ししました。この恵みにしっかり踏みとどまりなさい。
共に選ばれてバビロンにいる人々と、わたしの子マルコが、よろしくと言っています。
愛の口づけによって互いに挨拶を交わしなさい。キリストと結ばれているあなたがた一同に、平和があるように。


※イスカンダール大王の時代は紀元前350年ころ。スライマーンが約3000年前、つまり紀元前1000年頃、の時代。この時代、『ペトロの手紙』は本当はまだないはず。これは、たぶん一世紀か二世紀ころに書かれたと思う。イエスは当然紀元のスタート。

「バビロンはまだ平和だったのかしら」
「化けものに進入される以前の手紙かな」


タレスが山奥の森にはいって、木こりのように木を切り始めました。
槍を高速で回転させ、木にたたきつけます。
ガズッ!!
一度で6分の1くらいは木が切れます。
二発目の時、
ガッア!!バッチーンー!!
槍がはじけて飛んでいきました。
探していると洞窟があり、入り口近くに槍が刺さっていました。
中に入ると、髭を蓄えたこわもての老人が禅を組んでいました。
この老人は天使イブリースでしたが、堕天使でシャイターン(悪魔)の頭でした。
タレスは「なんだ爺さん…どうやらただものじゃないな。俺と槍の勝負をしないかい」
イブリースは答えました。
「フン…確かに力が強そうだが…退屈しのぎに相手をしてやるか。ここで、なすべきこともなく、ただ待っているのも疲れた…」


13

「爺さん、奥の手をつかわせてもらうぞ」
イブリース(堕天使の頭目)はタレスの目をみて、一瞬怯えました。
「猿面冠者(さるめんかじゃ)か、あなどっていたようだ。お主のような相手は油断ができぬ」
タレスは力任せに槍を投げました。
「ぬん!」
グオッ!槍はすっ飛んでイブリースにむかいました。
「ふん!」
イブリースは自力で槍をつかむと投げ返しました。
ドフッ!「ハゥッ!」
槍はタレスをつらぬきました。
「やるな爺さん。バビロンでアロンが石になっている…妙なばけものが現れて…力が余っているならいってみな…」
「フン!こんなふうにか?」
ジーン!
タレスは石になりました。
「バビロンが…おもしろい、手柄を立てに行ってみるか…」

14

勇者アロンは気がつくと、目の前に見覚えのある年寄りが立ってにらんでいました。「おまえは!?シャイターンの頭の…」
「フン!石化の術で800年も寝ていたのか?お前では腕一本切り落とすのが限界のようだが、わたしは残りすべて、始末してやろう」
「悪魔にからかわれるとは嬉しいな。こっちが正義の使徒だと実感できる!」
イブリースは半円の刀をだすとアロンに「持ちあげてみろ」とわたしました。
円盤を半分にした形で切れ味の良さそうな刃が円に沿ってついています。
たてに割った軸(イブリースの丈に近い大きさであった)に持ちどころ(グリップ)が二か所についていて、片手でもつことも両手で持つこともできます。
「うっ、重い、両手でふりまわすのがやっとだ」
アロンが両手でふりまわせるのにたいし、イウリースは片手で軽々とふりまわして見せました。
「おまえらのバビロン(パラダイス)に興味はないが…力を貸してやる」
イブリースは空中に浮き上がると半円の刀をふりまわし、反対の手で持ち直すとまたふりまわしました。
蛇女の腕に斬りかかると、一本切り落としました。
「ウゴアアアアア!!!
吠え声をあげる蛇女にイブリースはブーメランのように半円刀を投げつけました。
クルクル回転して、蛇女の腕にあたると、また一本切り落としました。
「おお、なんてやつだ」アロン(ハールーン・アル・ラシード?)はいいました。
「もう一本!」
しかし、蛇女が吹雪をはき、イブリーズがかわしきれないで、氷漬けになりそうになったとき、天から槍が降ってきて、蛇女をかすめました。
そのまま、城壁につきささりました。
「おお、この槍は?」アロンは槍をとるとイブリースに加勢しました。
ズガッ!
イブリースも轟音をあげながら半円刀を回転させ斬りつけました。
蛇女のからだが光ると次の瞬間消えていました。
「消えた。なぜだ!?
「……わからん」


15

アロン(勇者)はイブリース(反逆の堕天使)にたずねました。
「あの化け物の正体はなんだと思う?」
「おおかた、愛と楽園(バビロン)に興味があるが、愛を破壊したい女の悪霊かだろう。愛されるなど、なみの女には無休で仕事をさせられているようなものだからな…お前たちには気の毒だが、バビロンの女どもの邪念の産物かもしれんて」
「バビロンの女たちや戦って石になった戦士たちをもとにもどしてくれ!」アロンはイブリースに頼みました。
「きいてやらんでもないが…善悪の考え方の違うお前たちと仲良くやろうとしても、無駄な話なのだ…お前は若い!お前に石化を元に戻す術をおしえてやる」
「おまえの望みは何だ…!?」
「わたしたちの望みはお前たちにかなえられるというのか?塵から生まれたものが我ら天使より正しかろうか?」
「そうか…、おまえは人間に雪辱を晴らすことが目的だ…せめて例に強い武器でも渡したいが…お前のさっきの刀のほうが…」
「望みといえば、お前たちを時々苦しめる権利だろうがな…指図する権利と…イブン・アーダム(アダムの子、人間)は、イブ(ハワ、女)はアダームより低くされた。アーダムを自分のいいなりにしようともがく、イブリースの呪いに弱いものが、我が恨みを晴らす。光の子が力の弱いにんげんにかしずかなくてはならないとは…」
「なるほど、女が男より後にできたというのは、嘘か…先にいたのは女で、おまえらのように男より力が強い…」
「だが、神は人間の男をかしらにした、天使や女は人間の男に従えと…深遠なる考えがあってのことなのか…いざというときは、今のように女に助けてもらえ…そうでないときは、武力と神通力を鍛えろ…」
「俺たち男には神のように創造する力がある。楽園(バビロン)が壊れたとしても修復し、別の楽園(パラダイス)を創造できる」
「人間は生き物の名前を覚えたのではなく名づけたのか…我ら光の子、天使が知らないわけだ…」






考えられうる限りの楽園を創造し、道徳や法律を時代に合うよう構築するが、科学がどこまで追及しても絶対にならないがごとく、完全な楽園は一つもないということ。
恋の手法や結婚、祭りもどこそこで規律が違うが、正しいとか間違っているのではなく、しきたりがありよそものになると入りにくい。
数ある楽園は互いを批判し、あるいは参考にし日々を営んでいる。
恋愛に不可欠な要素として、男性が女性にいいにくい、ときには関係を壊しかねないような説教をしなければないというのがあるとされる。
ところが、どこそこのしきたりの数だけ具体的な説教の内容が違うのである。もっといえば男性の数だけしきたりがあるといえる。










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