二層式洗濯機置き場の長い夜
昭和40年代。
夜12時すぎ。
「うわ、おまえやめろ。こんなところで勉強なんかすんな」
40手前の営業マンがコインランドリーの戸を
あけて中に入るなり言いました。
「まる一日も寝込んじゃってレポートの期限が危ないんですよう」
「おまえ、あれ救急車呼ばれてきたとき、
気がついたら血なんか一滴もでてなかったぞ。
あれだよ、あの女、中国の気功法とか使えるんだよ」
「それはそうですけどね、レポートがね」
「おまえ学科なに?なんなの?」
「普通に経済学部ですけどね」
「勉強して意味わかるの?」
「アダム・スミスの国富論を読んだら、
これはいけると思ったんですよ。
だけど、ケインズなんか読んだらいみ不明の数式まで出てくるんですよね」
「経済とかよくわかんないけど、
数式で計算して予想とか本当にできるの ?
いや、俺も経済学部出身だけど、古いやつしか習ってないんだよ。
俺これでも40過ぎなんだよ」
ブー
「タイマーが切れるブザー音。なんか安らぐよな。
なんか昭和の香りがする」
「貧乏学生は貧乏洗濯する暇なしなんです」
「おまえ、たばこふかしすぎ、ここの缶ピー、みんなの物なの」
「いや、エリマキトカゲとかはやると思うんですよ。
生物学科の爬虫類学の講義で知ったんですけどね」
「経済じゃないの。
パチンコで勝ったから、たばこおすそわけ、缶に詰めといて。峰3箱」
「いや、もぐりで授業うけたんですよ。
あれは受けますよ。傘みたいなのが開くんですよ」
「エリマキってんだからエリマキだろ。エリマキトカゲ」
「昔のゴジラに出てきそうなんですよ。巨大化したら」
「それより、おまえさ、いくら忙しくても、
たまにはここの掃除しろよ。俺なんかお前がいないときいつもやってるよ。
モップとか雑巾とか置いてあるだろ。無人なんだからさぁ。
セルフサービスの食堂とかたぶんこの時代から普及したんだよ。
よく知らないけど」「今夜こそ何もおきませんよね」
「レポートがヤバいんだろ。力士が洗濯に来るとか?就寝時間厳守だよな」
「峰ってなんか喉がかわきますよ。ほかのたばこでも同じですけど」
「ジャーン。フルーツ牛乳。飲めよ。まじめな学生さんに特別サービス」
「ホントですか。ありがとうございます!!」
「いや、逆に何もおきないとかえって緊張するな」
バチッ! バチッ!
「ハイハイ、起こりましたよ。
プラグのコードが古くなってむき出しだよ。
危ないよこれ。お前、ドライバーとカッターもってる」
「携帯用ですけどありますよ。直せるんですか?」
「お兄さんにまかせなさい」
「焦げ臭いですよ」
「ヤバいはこれ、コードがむき出しとかのレベルじゃないよ。
モーターのエナメルがとれてんじゃないの。爆発するよこれ」
ジジジジジッジジジイ
「うぁわぁわああわあわわああああぁぁあ」
「伏せろ!!!!」
ボカン!!!!
次の日の朝、二人は煙の中から無事救助されました。
レポートはどうなったのかまではわかりません。
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