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2014年10月29日水曜日

Another War ―もうひとつの戦争― 第十六部


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Another War  ―もうひとつの戦争―

第十六部


Another War  ―もうひとつの戦争―









1



セルウィウスが常時駐在する建物。
一地域を管轄とするが、任務と地位がさらに重くなってきた。

軍部の改革に着手しているが、セルウィウスは決断を迷っている。
自分の部屋で机にむかい地図とノートを広げ考え込んでいる。
軍の必要経費はさらに増している。経済において爆発的なバブル経済のような帝国であっても、予算のはいり口という問題を抱えていた。

「うーむ。税金からの支出と別に任意で一口いくらの軍への資金提供か…」

営利企業や資産家からの軍への資金提供をつのるという。
税金と違う、軍のみの税だ。
なぜなら、帝国民全員に軍の充実は戦争時代のローマのように必要ごとであったからだ。
モンスターの襲撃から守り、植民地の治安を維持する。
「だが…金を払った金持ち優先に護衛することになりかねん……」

グラウディウス帝国のこの時代、社会保障や非営利団体など、慈善事業、寄付など、一定の生命線のためのセーフティネットなども、金持ちや企業などの任意の寄付に依存するところが多いのが事実だった。
もし、民間企業からの資金の流れがストップすると、税金だけで今のような最低限のセーフティネットが維持しきれなかった。
「…老王は適度にしごかれた方が、たるんでいるより、さっぱりしてさわやかに暮らせるみたいな、学生のスポーツみたいな演説をしているが……こっちは黙っていても仕事が減らんで扱かれている!!」

改革は実行してみないと結果がわからない。実行すれば、なんらかのデータは得られるが、うまくいかなかったとき責任をとるにとれるものではなかった。
いくら未来の哲学と科学に守られたグラウディウス帝国といえそれは何ともしがたい。

「わたしが…あまり新制度の前例を作りすぎてもまずい…」

パソコンを起動し、経済ニュースを取得する。
どこも潤っている。

「わたしは…経済の専門家ではないが…こうも儲かっていて、なぜ軍の資金がたりなくなる!?経済なんて資金の流れだ。しこたま金がたまりましたなど、帝国全体では一部の民間でのたわごとなのかも…それより、技術革新とか一定のリズムで生産できる工場とかのほうが信頼できるのかもしれん」

あっちが儲かったらなら、こっちにその金を払うとこっちはこき使われる。
ドングリの背比べなのかもしれない。

そのとき、あわてて兵士が入ってきた。
「セルウィウス統括本部帝!」

百人隊の若頭という地位でもあるが統括本部のトップでもあった。
「ノックぐらいしろ!なにごとだ!?」
「ハッ、ゾンビのドラゴンが暴れておりまして…実は通常の兵士では苦戦してまして…その…百人隊の出動の許可を!」
「…わかった、許可する。だが、百人隊で確実に始末しろ!」




2


「なに!?グラディウスがお見合いの世話をしている」
老王ロームルスはおどろいてふりかえった。
「ネットじゃどこにもやってないよ。極秘に伝わってきた」セプティミウスがいう。
「なぜ」
「うちだよ。あなたが老王だからだろ」
「なるほど伝令か。グラディウスに頼りにされるのも具合が悪くなるが、無視されてあっちでどんどんやられても気になる」
「そんなところだろ」
「それで誰のお見合いだ。何のために」
「後継者確保のためだってもっぱらの極秘のうわさだよ」
「なに、つい最近皇帝になったばかりで、もうなげだすきか?あいつ」
「そういうわけじゃないけど、後継者を確保して自分の権力の身を固めたいんだよ」セプティミウスは紙のレポートを読みながらいった。
「なるほど、皇帝候補にヨメさんを世話して恩を売ろうという気か。腹黒いやつ」
「ポーラさんってエスフラーデスのときお世話になった女の人が今頃お見合いしてるって。一報を入れたいらしいよ」
「誰に?」
「ボケてきたかい。老王にだよ」




3


自分で自分のお見合いを用意する人もいるだろうが、難しいケースもある。
皇帝グラディウス直轄のお見合いだった。

真丁寧な飾りが厳重についた案内をポーラはビールを飲みながら読んだ。
ネット通販の段ボールぐるぐる巻きの小包みたいだった。

《お見合いなので不必要に肌をさらさないこと。お見合いを楽しみすぎないこと、喜び過ぎないこと。ご縁がなかったときのことを重々考えて行動すること》などなど書かれている。

読んでポーラはやや考え着物を選ぶことを判断した。
地球の日本の着物がなぜグラディウス帝国にあるのかは定かではない。

喫煙歴をどうするかポーラは30分ほど考えた。
一カ月先送りで絶煙したことにすると決めた。
ブラックメンソールの煙草はその日から消えたが、なぜか苦痛なく禁煙できた。

その人は、帝国の特使を務めているという、あったことのない人が仲人と進行案内、相撲の行司さんのようなひとだった。

建物はあまりメジャーでない。質素な近隣の界隈にあった。
タクシーでそこまで来て中にはいる。

※なぜ両親など出てこないのか不明である。

なかは明るく輝いていて、新鮮で清潔、きれいであったが、みなれないデザインなのは確かだった。
日本でいう鯉のぼりとかゴエモンという雰囲気のデザインのような気がした。
そこまで観察している余裕がポーラにはなかった。

デミストクレスという次期皇帝を名のる男性だった。
やまっけが強いとポーラはすぐ直感したが、体力とやる気には確かに信頼できそうだった。

すもうの行事のような仲人がいったん中断させ二人を離した。
交互に確認をとると、もう少し見合いが続行になった。
「では…良人のご意思がありましたので」

そういって小さい杯に紅茶でなくお酒が今度は出された。
「一杯だけいただきます…」
ポーラはそういって飲んだ。



4


デミストクレスは帝国の各地で小さな講演や演説をおこない、次期皇帝は自分であると主張していた。
サーカスの小屋のような小さいテントで人を集めて何かしたりもしていた。
言論の自由のようなもので、罰則などはないが聴講者は誰もそれほど本気にしていなかった。
意外なことにセルウィウスが関心を持っていて、仕事の取引で顔見知りになっていた。
ビジネスをはじめたが、そううまくいかず、「わたしは商売はあまりうまくいかないところがあるが、グラウディス帝国を引き受け、大帝国にすることは心得ている」などと吹聴していた。
セルウィウスは今は小物だがいずれはそれだけで終わるまい。傑物となって帝国に貢献するだろうとなぜか彼はそう期待の目でデミスとクレスをみていた。
彼が「次期皇帝」と声を荒げると、「ハハハ」と笑い声もまじるが人気もそれなりにあった。
だが、彼本人は30代も終わろうとしているのに浮かばれない人生を送ってきたと密かにがっかりしていたのだった。

《お見合いが楽しいのは仕方ないが、それを楽しみすぎないように》というたしなみがあったが、彼でそこまでうれしいわけではないのではないのか、ともいえるがデミストクレスには未達成で未知の力があふれていた。



5


「かっ、勝手にしきたりをつくるな、グラウディウス。どこそこでしきたりは違うんだ。わたしがやらせているみたいだ。老王公認などとされたらどうする。彼らの見合いの日、わたしのハートには心痛が走った」
ロームルスはミネラルウォーターをガブガブ飲みながら手紙を読んでそういった。
「だいじょうぶ?老王」セプティミウスがやってきた。
「おう、セプティミウス君。みてみたまえ、グラディウスは失態を犯した。皇帝になりたいやつがいないときのために複数の皇帝候補を確保するつもりだろうが、誰もかれも皇帝の座をねらったとしたらどうするんだ、グラディウス君。お家騒動になる。世話したお嫁さんにも恨まれる。わたしのときはグラディウス一人が立候補して、彼しか敵人がいなかったからすんなりいったが、あの時空警察の国士無双と詠われるジュピターとかいう青年剣士はどうする?」
「ああ、なるほど立候補者がいないと困るけど、立候補しすぎても覇権争いになるんだ。そりゃたいへんだね」


6


ポーラに夕方の6時ころホームテレホンに電話がかかってきた。
「ええっ、そうですか」
ポーラとデミストクレスがお見合いした建物は焼きはらったという。
風水学者によると、のちの人に参考にされるまでは良いが、そっくりまねをすると運気が下がるという。のちの人の運気も悪くなる。それは自分たちで工夫する心構えが大切という考え方で、制度でも建物でも使い回しをしすぎるのが凶という風水学者の先生の意見だという。
「そこまでしなくても」ポーラはそうおもったが、お見合いから恋愛に移行しつつあった。


7

グレートシティ

ユニオーンという青年が日中、グレートシティの公園をぶらついて溜息をついていた。
「はーっ」
ユニオーンはヴィクターの従弟だ。
彼はヴィクターが「へたれ皇帝」として泣いて帰って来たらなぐさめてやるつもりだった。
だが、真逆に彼は出世をし、帝国の女性と婚約するなどそんなそぶりもない。
「ふーっ」

むしろ、トップのグループとヒソヒソ密談しているかのようにさえ思えた。
「おちこぼれになったきぶんだ」
学校を卒業後、ヴィクターと違い時空警察にも努めずぶらぶらしていた。
文武とも全く駄目でもないが中途半端な彼だったが、ヴィクターと違うやさしさをもっていた。

公園のベンチにこしかける。
緑が豊かで噴水のみずしぶきが煙のように待っている。
昼特有の静かさがあった。勤め人や学生は会社にいたり、学校にいる。
主婦と幼児くらいであとは公園とは違う場所が、ガクガク血気盛んになっているのだろう。
ブラックメンソールの煙草にジェットライターで火をつけ、煙を吸い込む。
「ふーっ」

なぜかわからないが、彼には通行人のビジネスマンからお年寄り、子供まで集まってきて彼を眺めた。そういう人気と違う人気みたいなものが彼にあったのは確かだ。
「お兄ちゃんお腹痛いの?」
ユニオーンは立ちあがると腕を振った。
「見せもんじゃないんだ。さあいったいった」



8



ライトアリスタンダー祭はコインメタトリーでもおこなわれる。
グレートシティのお祭りもみたくて、エドアールはアルバリシアを誘った。
アルバリシアははじめ、「そんな遠い旅は」と断ったがついていくことにした。
宇宙船はシステムが完備されて安全だといって説得した。
アリスタンダー祭はアリスタンダーをたおしたときひらかれたが、二度目のライトアリスタンダー討伐とあわせてコインでは一つのお祭りとした。
クリスマスはさすがにグレートシティやコインではない。
しかし、地球と違うイエス伝があり、似ているが違うクリスマスもある。

ラグナクロクから車でエカルテにはいり、そこの空港から飛び立った。
荷物は向こうのホテルに直接送った。
「この旅行船に一緒に積んであるのかな」アルバリシアがエドアールにきいた。
「それだとリアルタイムだな。少し早い船で一歩先をいってるんじゃないのか」



グレートシティ

ホテルにチェックイン。
その日は中で休んで、次の日の昼近い午前、ライトアリスタンダー祭にむかった。

広い公園で出店などが開かれてにぎわっている。
ウッドハウスのような店がずうっとつづいている。
ドイツのクリスマスマーケットのようであり、日本の祭りのようであった。
かき氷の店、ワッフル、ホットワイン、ホットドック、フランクフルト、ソーセージに辛いあじつけしたもの、焼きそば、透明カップにはいったビール。チーズフォンデュ…

クリームシトロンを買っている女性がいた。
ふりかえってベンチとテーブルがならんでいるか所にもどろうとしたときエドアールと目があった。
「あ」
「ああ、偶然。エスフラーデスであった。ナギサさん…」
「こんなところで会いまして」ナギサはそういって笑った。

驚いたことにこんがり真っ黒に日焼けしている。
(ファンデーション?ってやつか…)
化粧を落とす薬でふいたら白く戻るのかと考えた。
あとでアルバリシアにきいたら化粧かもしれないし、日焼けしたのかもしれないという。

立ち話を少ししていると、キンコンカンと心地よい鐘の音が鳴った。
《これよりパトロクルス氏の講演が行われます》
「あっ、はじまった。いかなきゃ」ナギサがクリームシトロンをもったままホールのような段がある講演にいこうとした。
「パトロクルス?」
「ファンなんです。じゃ、エドアールさん、アルバリアさん。また、どこかで会いましょう」
そういって走っていく。
「かっくいい~」エドアールはそういった。「彼がライトアリスタンダーをたおしたのか?」
「さあ」



9



ユニオーンはポケットに手を入れて歩きだした。
「金もないし、行くとこもないってのは辛いな」

グレートシティは時空警察、つまり警察の本拠地だが、そういう警察ではない。
監獄や刑務所などあるのか不明だが、なぜかムショあがりのようなゴロツキが出没することがある。
「よお、あんちゃん。ストリートファイトで勝負しないか」
「あ?」

路地裏でユニオーンは殴られていた。
「ぐはっ、がは」
ミゾにひざをもらってかがみこんでいた。

ゴン
背のひょろ長い男がオーバーランスで頭をつついて立っている。
「なにしやがる。てめえもまとめて相手してやろうか!?ああっ!!槍は反則だぜ兄ちゃん」
そういうとストリートファイト野郎は逃げていった。
「がはっ、早乙女(さおとめ)か」
「おまえ、こんなところでやられてどうするねん」
「俺たちみたいなのが刀槍を持ち歩くとうるさくいわれるぞ」
「そやな。オレみたいなハポネス星人には就職の道もないわ」
「バカいうな。よその星からきても務めているやつはいるぞ。俺達がバカだからだ」
「それでな、おもしろいものみつけたで」
そういってチラシを見せてにゃっと笑った。



10


エドアールとアルバリシアはナギサと違う席に座ってパトロクルスの講演を聴いた。
満席というほどでもないが、うまっている。
あっちのほうからミュージシャンのライブかカラオケの声がまじってきこえる。
野外ステージはなかなか高いところからマイクで公演された。

次世代の守護神というパトロクルス。
彼にいわせると、現在のメガロポリス、デカポリス体制は古びている。
宇宙ステーションである巨大なコスモも建築中であるが。二大都市とコスモ以外にもう一つの都市国家をつくり、そこの権力を分散するという。

「おーっ、さすが次世代の守護神」エドアールは感心した。
時空警察領は地球のような球の星ではない。
どちらかというとコインのような感じだ。
チョコレートの板のような平面がずずーっと敷き詰められている構造をしている。
そのため増築は可能だった。










2014年7月7日月曜日

Another War ―もうひとつの戦争― 第十五部






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Another War  ―もうひとつの戦争―


第十五部


Another War  ―もうひとつの戦争―











1



アルアロリアは窓の外を見た。
信じられないくらいの、美しい景色の森が見える。
それでいて、この城のすぐそばは都心部のような未来型のシティが続いているのだ。
その不自然さにいまさら驚いた。
誰か庭師が手入れしているわけでもないだろうに、天念の大自然のような森が終わらないかのように続いている。
アルアロリアは絵本に出てくる、大昔の時代の森のようだと感じた。
いろいろな種類の鳥たちが絶えずさえずり、なごませてくれる。
よほど未開拓の山の中や自然の残る土地でないとありえないはずであった。
窓の周辺から写真で切り取るか、絵にしたらさまになるほど、偶然とは思えないように整っている木や緑だった。
だれか計算して画家がうまく描いた額にはいった絵が飾ってあるかのようだった。

アルアロリアはそれでいてテレビの画面も見た。

アルアロリアは侍女のマルジャーナとノヴィ=ゾルカの三人でテレビを時間つぶしと娯楽のためにみていた。

マルジャーナは舞踏と剣舞の達人で機転がきき、工夫の才があり、度胸があって立ちまわりのきく娘だった。
修練を積んだクレアの剣とも違う剣術を秘めている。

そのとき、アルアロリアの侍女のセテカが部屋にはいってきた。
セテカがいう。
「アルアロリア様。美の小箱というものが紙の上の論理上ではなく現実に現存するという話しです。なんでもとても美しくなれる力を持った魔法の箱だとか」
「美の小箱…」

セテカは色が黒色で(地球でいう黒人)、すらりと細いが、ボッキリおれそうな細さではなく、しなやかな細長い腕を持ち、ヴェールを室内でもつねに身につけて顔を隠していた。
まつげがものすごく長く、砂漠が近くにある国で生まれたのかと疑うようであった。知性的な美しさに恵まれ、もうひとりの侍女ノヴィ=ゾルカとも似ているが違う知識に長けている。

「…それはどういうものなの?教えてちょうだい」
「…ふたを開ければ、美の力を分けてもらえると伝わりますが、災禍の魔をはらんでおり、それが美の小箱の難点であると。また、手に入れるにしても途方もない難しさで、地獄の番犬やら竜やらに守られているといいます」

「ぜひ、美の小箱が欲しいわね!」

マルジャーナがうれしそうに、しかし力強くこういった。
「アルアロリア様、その災禍はこの宝石の魔力で打ち払ってしまいましょう。そうすれば美の力を手にできましょう」
首の魔石を見せてそう力んだ。

【ネルアングリラの魔石:ブローチ】

セテカがいった。
「術を発明した魔術者の仕組みが違えば、はじけないこともあるかと」

「では、帝国の守護兵たちの力で解決しては…」マルジャーナがいった。
「禍がおこってしまっては遅いのかも」アルアロリアがいった。
「では、ヴィクター様の剣の輝きで守ってもらっては」セテカがいった。
「ヴィクター様しだいね」アルアロリアがそういった。
マルジャーナがなおもこういった。
「私ども侍女がヴェールを身につけ街に行って話を聞いてきましょうか?」
セテカがパンフレットをアルアロリアにさしだした。
「美の小箱は手に入れがたし。されど…新型の化粧品が特注で開発されたとアルアロリア様に届いております。口紅と口紅入れだとか」
「ありがとう。注文してみようかしらね」
マルジャーナがいった。
「アルアロリア様、剣を持ち、武力を磨いたわが身では殿方にお断りされるかもしれませぬ。男性に対抗する武力を持ち合わせたと」
ノヴィ=ゾルカがいった。
「わたしも…男性に勝る知性と学力、知識を保有したがゆえ、男性と結ばれるのが困難になったかもやしれません。ですがアルアロリア様でしたら」
「ひとを、何のとりえもないみたいにいわないでちょうだい」
「わたちたちは、取り柄を磨きましたが…男子の力の一部が我が体内に張り巡らされたのです」





2



ロームルス演説のときが来ていた…
ここロームルスの私城の高台でおこなわれる。
帝国の創始者。そして皇帝グラウディウスに実権をゆずりわたしてからは、ご隠居の身。
それでいて、帝国民の支持率はいまだ議会を揺るがすほどだった。
さらに、個人資産の莫大さと、各自帝国軍とは別個のロームルスの独自の身辺警護の軍隊も保有している。

高台からの演説といっても、最新高性能マイクを使っての演説だった…

セプティミウスが演説直前のロームルスの相手をしている。
「老王?!大丈夫?もう歳なんだかららさ」
「ああ、セプティミウス君。歳だから違う半面大丈夫だ。ずっこけても恥を感じにくいし、先も長くない。だが、スタミナとか別の半面、頑丈さが削れてきた。あれ、君。その指輪はどうした」
セプティミウスは指にはめた赤い小さな宝石のついた指輪をみた。
「これ!?前の魔戦争のときのビックスケルトン…、奴が指にはめていた。戦いの最中隙を見て盗んできたのさ。魔法の指輪で持ち主の指のサイズに変わる…」

【ネルアングリラの指輪】

「そうか、あのフェンリスウルフダンジョン探索のときの…さて、出番だ。いってくる」


群衆が城の眼下、広場のようになっているレンガの敷き詰められた地面にずらっと集まっている。
地方から来た者もいるだろうし、この土地から来た者もいる。
老王ロームルスの演説を聞きに集まっているのである。

兵士が警備にあたっていて、問題は起きていなかったようだった。

ロームルスは老いて枯れた喉から声を張り上げた。
「諸君!ファミリーレストランで金を払えば食える、ガーリックのきいた大根おろしたっぷりのステーキが食いたいか!?にんにくのあとから広がる香ばしさと香辛料、大根おろしの汁がソースにからまって脂肉のこってりした味と争って口の中で満足のハーモニィを演奏する。
確かにうまい味に見合う手ごろな金額を払えば注文できる。だが、それだけでは食えない。仕事をきっちりこなして、あるいは叱られて働いてきた涙の味だ!労働してこなければガーリックステーキランチは食えん。いいか!労働の汗と涙は働いたものは知っている。それがソースとなるのだ。ガーリックを味わうための…ソースのためのソースだ!」

きいている群衆のうち何人かは労働のあとなのに《ディナー》ではなく《ステーキランチ》なのだろうと考えたりした。

「女性でいえば、う、う。うん。女性じゃないからわからないが、悲しみは嫌な話だ。だがサラダにかけるドレッシングでもあるのだ。あえて不都合を呼び寄せることはない…だが、若いうちは嫌なことがあっても、神経質にならずスパイスやソースなんだ。ありがたい。なにがありがたいのかわからないが、飯がうまいのはそのせいのようだと、納得して通り過ぎるのが良いのだ」

演説はこのようにつづいた。

「さて…帝国は君たちが生まれる前の昔に比べ裕福になった。だが、ハングリー精神がなくなってはせっかくここまで来た帝国が傾く。そこで悪いがスパルタであり、納得がなかなかいかないような不平等は帝国に残る。いや、わざとじゃない。わざとじゃないがどうやったって問題はなくならない。だが、それは帝国が不幸だからだと納得するのではなく、自分に課せられた試練であり、うちかったとき、あながちありがたかったと思えるように生きてほしい。以上だ!」


拍手もおきたが、老王の思想を理解したものしないもの、反対派も実は何割かは来ていたのだった…。
テレビとインターネットに演説は流されていた。

帝国の時代はこのように流れ去ろうとしていた。




3



アルアロリアと侍女のクレア、マルジャーナ、セテカ、ノヴィ=ゾルカの五人が室内で談笑していた。
立ちっぱなしでいた、マルジャーナが一人掛けのソファに王様のようにどっしりと腰かけた。
アルアロリアが口を開いた。
「それにしても、最近ではモンスターが急激に強くなっているそうだけど、マルジャーナ、あなたち…よろしくたのむわよね」
マルジャーナはソファからとびおきると腰のレッドソードをはたいていった。
「イェッサ、イェッサ、 ❤~ アルアロリア様はマルジャーナが夢見たマルジャーナになってくださいませ。このマルジャーナはどこか死ぬ覚悟ができております」

アルアロリアが席を立ってなにか取りにいった。
冷蔵庫を開けてアイスクリームを取り出す。
「みんなで食べましょう。特製アイスクリームよ」

マルジャーナがいった。
「イェッサ・イェッサ・アイラブユー~♪」
クレアがいった。
「ああ、いただきます」
「結構なアイスクリームね」セテカがいう。
「わあ、すてき、ちょうど食べたかったわ」ノヴィ=ゾルカがそういった。
みんなでわいわい冷たいアイスクリームを食べた。


アルアロリアが提案した。
「ねえ、お夕食早めの時間にお庭で食べましょうか?」
「賛成」
「いいわね」
「でしたら、わたしが『ママカレー』を作ります、作ります」
マルジャーナがいった。
アルアロリアがいった。
「手伝うわ」
さっそく二人はキッチンに向かう。
エプロンをつけて手を洗い、二人並んでキッチンに立った。

「わたしたちは庭にテーブルをセットしてお皿や飲み物を用意します」セテカがいった。

涼しい風が少し吹いてきた初夏の気候に似ている帝国のコモンスル宮で五人は『ママカレー』を食べた。
独自のスパイスとマルジャーナの優しさが詰まったカレーライスだった。
日は傾いてきている。
「ところでヴィクター様のお母様ってどんなかたなの、アルアロリア様」ノヴィ=ゾルカがスプーンでカレーをすくいながら尋ねた。
「…あったことはないけど」


回想シーン

☎ヴィクター「母?ああ、おれの?アンドロメダ…母アンドロメダ」

「アンドロメダ姫?星座のような名前ですね」クレアがそういった。
「…なんでも、私があったとしたら私よりまだ若いって感じがするって…」
「どういうことですの?」セテカがいった。
「年齢は確かに年上だけど…とても「おもしろい方」だとか」
「楽しそうでいいですわね」マルジャーナがおもしろがった。





4



ロームルスの演説数日後…

「老王。演説はなかなかの反響みたいだけど…」
「それはありがたい」
セプティミウスと老王が私城で会話している。
この部屋は4階である程度の高さがあり、窓が広く作られた部屋だ。
ロームルスはソファに横になって倒れている。
セプティミウスは剣の鞘をいじりながら立っていた。

「でも、老王。なんで人生は思い通りにいかないんだろうね」
「セプティミウス君。思い通りにいかないのかね」
「ネットでいっつもやっている。なかにはキレて暴れている人も大勢いるんだ。創始者としていいの?」
「君たちの好きなネットか…わたしは今、ネットでもネットラジオに耽溺している最中だ。外の世界と室内にいながらにして交信している。帝国は広い。自分の知らない人の話が聞けてためになる。若者の好きなネットを普通に見ていると目が焼けないかね。老人なんで目を休めたくなる。耳だけのラジオは都合がいい」
「年寄りだから仕方ないけど…」
「人生の問題か。帝国の自慢は何だね。セプティミウス君。表面で考えないで奥深い骨格を掘り起こして思考する。実際むやみに探索するんじゃなく地図をたよる。地球儀でかんがえる。…で考える」
「それは知っているさ」
「モーターがある。これはうまくいっているんじゃないのかな。電池につなぐだけでちゃんと回るんだ。プログラムも。正しく組んでいると本当に動く。さっきの話と反対でうまくいっている例だ。技術とか工学みたいなもんだが」
「そうさ。システムがきちんと回っているんだ」
「うまくいかないのは。帝国民の政治かね」
「ぼくはわかるさ。うまくいっていて今くらいなんだ」
「セプティミウス君。自分は負けたんだと理解することだ」
「嫌だ。なんでぼくは負けなんだ。そんなのみじめだ」
「最後まで負けていろというんじゃない。今負けていると認識するんだ」
「それで勝てるようになるの?」
「こんな説が帝国にある。数学的世界と物質世界、精神世界の三つの世界が連動して成り立っているという説だがね。地図が数学的世界に対応する。惑星の実際の土地が物質世界。精神世界は人間の頭。脳とまでいいきらんが精神に存在する」
「それで?」
「物質世界は数学世界のいいなりだ。数学的規則に逆らえない。どうやってさからう。さからうとしたら次世代の技術みたいにプログラムの上から封じ込めないとダメだ。そんな堅牢な数学世界は誰に支配されていると思う。精神世界だ。精神世界が数学的世界を牛耳っている」
「グーチョキパーだ」
「そのとおりだ。精神世界のクリックはどうやるとおもう。スイッチを押すんだ。押したら世界が変わる。おっと…」
「自分たちの現実世界でなく、数学世界に命令がいく?」
「かもしれないし、今までと違う物質世界に転生するのかもしれない。パラレルワールドにさ。わけのわからない世界なんだろう?今の世界は。いうことをきかない。ならおつむだ。いいはるんじゃなくて気付くこと(アウェアネス)がスイッチだ。いいか、でも痛いぞ。気がついて理解するることが人間の自由になる脳、または心にスイッチなんだ。とぼけて気がつかないと押せないスイッチだ」
「なるほどね。心のマウスがアウェアネスか…」
「だが、くれぐれも…駄々をこねることはアウェアネスじゃないんだ。大人になること、現実を正しく理解することなんだ」




5



お茶の時間、アルアロリアがいつものように会話をはじめた。
「アンドロメダ様って…お母様って、ヴィクター様にいわせると、走っているって」
クレアがいった。「走っている?」
「『やつは走っている。横になって寝ころんでいるだけかと思ったら走ってやがる』って」
「やつ?」マルジャーナが紅茶をポットからカップに注ぎながら、首をかしげた。
ノヴィ=ゾルカがカップを並べながらいった。
「アルアロリア様、それは抽象的な話です。抽象的な話の危険なところは雲をつかむような話で、お互い意思の疎通が勘違いに終わることがあるということです」
皆はゾルカの顔をみあわせた。
「具体的な現実のエピソードならはっきり見えて、理解しやすく共通です。ですが…たとえば、アルツハイマーという病気。学問が進歩しないと違う病気と混同するでしょう。ある学者は似ているが違う病気と分類し、違う学者はアルツハイマーの一症状と認めます。意見が食い違いますが不思議はありません。解明されてないのですから。果たして事実はどちらなのでしょう」
クレアがいった。
「医学でなくとも…専門的な分野はみんな、相当修練を積まないと意味がわからない教科書となっているわよね。専門家でないと会話に意思疎通がうまくいかない…」
「それが、具体的なエピソードの会話と抽象論理的な会話の違いです。女性はおおむね、概念的な会話を苦手としますが…」ゾルカがそういう。
アルアロリアがいった。
「わたしなら…専門家の先生に任せるかしら」
「それも方法の一つですが…抽象的食い違いが夫婦であるとケンカになるというより、意思がかみあわないのです。夫婦でくい違うと衝突事故どころでは…」
アルアロリアがいった。
「ヴィクター様がいっていたわよ。『オレは仲間(セド)にもいわれたが、成長が止まっているのかもしれない。それでいて成長が完全に止まらない。仮死状態みたいに成長している』って」

セテカがクッキーをテーブルに添えた。
「専門的な会話、抽象的な会話はゾルカのいうとおりよ。でも、知らない外部の人が聞いたら秘め事みたいに聞こえて気分を害すかもしれないわ」
「シークレットをパスワードがないと読めない会話のようにおもわれるのでしょう」マルジャーナが敬礼のポーズをとっていった。
アルアロリアが紅茶を口に運びながらいった。
「そうでなくて…あいまいな世界の会話なだけだけど…」
ゾルカがいった。
「この世界はリアルの目に見える現実だけで成り立っているのではないことは、子供でも理科の時間に気が付きます。実際は8割も解明されていない、抽象的な現実が世界を占めているのではないでしょうか?」
「いえてる。知識の薄い世界なんて迷路というより理解不能なんですわね」マルジャーナがいった。
「ヴィクター様は…『夫婦はお互い理解者になるのが理想』だって、その抽象的であいまいな世界の理解に食い違いがあると…」
マルジャーナがいった。
「むしろ理解するというより、まるごと相手を信頼したほうが早いのかも」
セテカがいった。
「理解というより男性を信頼できるか…」






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「老王手紙だよ。随分丁寧な封書だけど」セプティミウスが老王を起こした。
「うん、?ああ、サンキュー、セプティミウス君、どれどれペーパーナイフと眼鏡は…」
横になっていたロームルスは焦げたグラディーションの木製の書斎机からとりだした。

「うむ。アルアロリア譲と時空警察の若旦那との結婚に激励の詩文を書け!?グラウディウスだな。わたしになぜ内密にする、とごねたからこんなこと仕向けてきたようだ。わたしに二人の結婚にさわられると汚れるでいいんだ、この歳になると。おめでたいものはその位潔癖をつらぬいて結構だ。こんなのは詩人に任せた方がいい仕事だ」
「確かに老王の出る幕じゃないよ」
「そのとおりだセプティミウス君。ラジオでやっていた。労働勤務のあとはコミックを買うのが最適なんだ。わたしも昔そうだった。勤務のあとで読みたいコミックが販売されてないと悲しかった」
「コミック…昔読んでたけど、今読む気がしないよ。どっちかっていうとスポーツかアウトドアだ」
「君の任務は第一にわたしの相談相手だ。第二に戦闘、第三に諜報活動など。君のワークスタイルは自宅警備員だ。オフィスでも実店舗の売り場でもない。金持ちの豪邸で一日暮らすのが君の勤務なんだ。どうだ、夜学でも通って勉強してみるか」
「…考えておくよ…それより、アルアロリア姫って前いった、海を渡った大陸のフェンリスダンジョンのかなり近くにいるって」
「コモンスル宮だ。それでどうした」
「いや、別に…おめでたいけど、時空警察か、オーブリーとエドアールって友達ができたけど、残念ながら彼らは時空警察じゃないんだ。まだ向こうの宇宙の星にいるってさ。それに、なんと魔王アリスタンダーを倒した一行の一員だったって、すごいな」
「アリスタンダーか。君も魔戦争を停止させた。若いうちだけだ、そんな活動ができるのは」